カツカツと踵が石畳を蹴る音が響く。
早く、人目につかない様になんとか海停までたどり着かなければならない。
しかし表通りに近付いてきたところで甲冑の金属音が聞こえてきたため、足を止める。
「いたか?」
「いや。しかしバカなヤツもいたもんだ。ラフォート研究所に乗り込むなんて」
「子どもと女だろ?何がしたいんだか・・・」
どうやらラ・シュガル兵のようだ。
声が遠ざかってゆき、兵がいなくなったのを確認しながら表通りを覗く。
(研究所に乗り込んだ・・・?)
今の話を聞く限り、研究所に何者かが侵入し逃走しているらしい。
(・・・)
その二人に話が聞ければと思うが、何よりも今はイル・ファンを出ることを考えなくては。
見つかってしまえば元も子もないのだから。
もう一度辺りを確認し、路地から駆け出した。
私が海停にたどり着いた頃には何か騒ぎが起きていた。
物陰から様子を伺うと、ラ・シュガル兵が誰かを拘束しようとしている。
「どうしようかしら・・・」
このままでは船に乗れない。
イル・ファンから外に出るには陸路では不可能なためどうしても船を使うしかないのだが・・・。
悩んでいると、停泊した船から低い汽笛が鳴り響いた。
もう迷っている暇はない。
意を決して物陰から飛び出し、船に向かって走る。
目の前では兵に囲まれていたらしい人物が船に飛び乗っているのが見えた。
ぐっと足に力を込めて地を蹴ると、ふわりと風のように体が浮いて海を越え、甲板に着地する。
ふと視線を感じて顔を上げると、床に座り込んでいる琥珀色の瞳の少年と視線がぶつかった。