09

キジル海幕は大きな滝と川が流れ起伏の多い岩地だ。
越えるにはそうとうな体力と気力がいるだろうことは、旅の素人でも一目瞭然である。
ラ・シュガル兵も追ってきてはいないようだ。
村に危害が及んでなければいいけど・・・。

「村の人たちに悪いことしちゃったね・・・。よくしてくれたのに」
「ラ・シュガル兵が来てるんだ。逃げるが勝ちってな」

ジュードの言う事もよくわかるが、私は自分の目的のために捕まるわけにはいかない。
それにむやみに村人を庇うより私たちがいないと知れば兵は退くかもしれない。
アルヴィンの言う通り、あそこは逃げるしか方法はなかったと思う。

「どうするか決めたのは、彼らだ」
「僕らを守ってくれたのかもしれないんだし、そんな言い方しなくても・・・」
「気になるのか。ならジュード、君は戻るといい」

その言葉に驚いてミラを見ると、すでに歩き出そうと背を向けていた。

「短いつきあいだったが、色々感謝している」
「どうしてそうなの?」
「・・・もっと感傷的になって欲しいのか?」

ジュードが声を荒げるが、ミラは訳が分からないといった様子で淡々と述べる。

「それは難しいな。君たち人もよく言うだろう。感傷に浸ってる暇はない、とな」
「・・・使命があるから?やるべきことのためには、感傷的になっちゃいけないの?」
「人は感傷的になってもなすべきことをなせるものなのか?」
「わからないよ。そんなの・・・。やってみないと・・・」

消え入りそうな声でジュードは俯く。
ミラの口調には責めるような響きはなく、ただ純粋な疑問をぶつけているようだ。

「なら、やってみてはどうだ?君のなすべきことを、そのままの君で。それで答えが出るかもしれない」
「僕のなすべきこと・・・」

なすべきこと、自分の使命。
ジュードがミラについて行くのは、彼女の使命へ対するひた向きさに憧れてなのだろうか。

「マクスウェル様のようになる必要はないだろうさ」

アルヴィンが立ち尽くすジュードの肩に腕を回して声をかける。

「ねえ、アルヴィンとフィオにはなすべきことってある?」
「・・・さて、な。あるって言ったら余計迷うだろ。ジュード君」

ジュードを気遣った言葉にふと笑みがこぼれる。
傭兵だからなのかどこか胡散臭い印象を受けていたが、人を気遣うことはできるようだ。

「そうよ。人それぞれなんだから、もし私たちになすべきことがあったとしても、あなたになければいけないものではないわ」
「・・・・」
「んで、どうすんの?村に戻る?」
「・・・ううん」
「じゃあ、行きましょう」

アルヴィンが歩き出してもジュードはまだ悩んでいるのか、立ち止まっている。

「そうやって、悩めばいいと思う」
「え?」
「他人が示した道に自分の意思はないもの。自分が納得して、答えを出さなきゃ」

ね?と言えば、ジュードは目を泳がせてありがとうと返した。



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