非常に困ったことになった。

リンクは自分に、もはや抱き着くと言うよりしがみついている彼女にどうすることもできないでいた。


「なまえ」

「…………」


さっきからずっとこの調子だ。
とても久しぶりになまえに会いにきて、すごく幸せな時間を過ごした。
それでも世界は待ってはくれないから、名残惜しいけれどまた旅立とうとしたらすごい勢いでしがみつかれた。

「なまえ」
「……………」

どうしたものかとリンクが小さくため息を吐くと、なまえが体をびくりと震わせた。
怒っていると思われたのだろう。

「なまえ、別に怒ってないよ」
「…………」
「でも俺、もう行かなきゃ…」
「…………」
「………なまえ」
「やだ」

なまえが小さくだけど、やっと口を開いた。

「わかってる。わかってるの。リンクは世界を救おうとしてるし世界はリンクを必要としてる…でも!」
「!」

顔を上げたなまえの目元には涙がたまり、それはこらえきれずぽろぽろとこぼれる。

「もし…もしもその旅のせいでリンクがいなくなってしまったら私の世界は死んでしまうのよ!」
「………なまえ、俺は」
「いなくなったりしないなんて保障がどこにあるの!?このハイラルは広すぎてリンクがどこにいるか知ることすらできないのに!」

リンクは正直引き留めてくれるなまえに嬉しさを感じつつも、同時に悲しさを覚えた。

(こんなにも…)

なまえを悲しませていた事実が。

しかしそんなリンクに反してなまえは名残惜しそうに体を離した。


「ごめんなさい……」
「なまえ」
「こんなこと言うつもりじゃなかったの…リンクを困らせるつもりもなかったのに…!」
「なまえ」

リンクは目の前で泣き続けるなまえを抱き締めた。

「俺は…確かに、絶対無事でいるなんて約束はできないけど」

なまえの頬に手を添えて目を合わせる。


「信じてよ。俺が、この世界のどこかでなまえのために頑張って戦い続けてることを」

「…!」


なまえは息を飲むと、また涙を流した。
このままだと枯れてしまうんじゃないか、そう思ってなまえの目元を親指で何度も拭う。

「…リンク、ごめんなさい」
「ううん。…寂しくさせたのは俺だし」
「でもね…」

なまえはリンクに抱き着き、リンクも抱き締め返す。

「…………」
「…なまえ?」
「…何でもない」

なまえは体を離すとリンクの盾と剣を背負った背をぐいぐい押した。

「ほら!私はもう大丈夫だから!」
「わっ、なまえ!」

リンクは足をもたつかせながらも家の扉を開いた。

「いってらっしゃい、リンク」
「うん。いってくるよ」

最後に見た彼女は微笑んでいた。

しかし閉めた扉に背を向けて歩き出すと、彼女の世界が壊れる音が聞こえた気がしたんだ。










グッバイマイワールド










(あなたがいればこの世界の平和なんてどうだっていいのに)