カカリコ村の井戸のそば。
なまえが井戸で水を汲んでいるのをリンクは心配気な表情で見つめていた。

「なまえ大丈夫?俺がやるよ?」

リンクの言葉になまえは笑って首を横に振った。


なまえには声がない。
本来なら誰しも持っているものを、なまえは失っていた。
始めのうちは思っていることが伝わらず、よく二人で困った顔ばかりしていたが、長く一緒にいるうちにいつしかそれは解消された。
今では仕草や表情で大体意志の疎通ができる。
声がないことに対して本人はそれが当たり前に感じているのか、少し不便かなと苦笑して済ますくらいだ。


なまえは井戸におろしていた桶を紐で引き上げる。
それを一旦地面に置いてくくりつけていた紐を外すと、すかさずリンクは桶を持ち上げた。
なまえがリンクを見る。

「重いでしょ?持つよ」

なまえは困った顔をして笑った。
「ごめんね」の顔だ。

「いいよ」

リンクはそう言ってあいたほうの手でなまえの頭を撫でた。
なまえがくすぐったそうにはにかむのを見てリンクも口元を緩める。

「さ、帰ろう?」

なまえはこくりとうなずいて、リンクの空いている手をとって歩き出した。

リンクはぼんやりと手を引かれながら思う。

(カカリコ村の薬屋でもダメだった。ゴロンの里にもゾーラの里にもそんなものはないって言ってたし…)

リンクはなまえと繋がれた手をじっと見る。

(やっぱり、もともとない声を手に入れる方々なんてないのかな)

リンクが小さく息をついた。




ぷに


「っわ!?」


突然なまえが人差し指でリンクの鼻先を押した。
そして繋いでいた手を開かせ、その平に指で文字を書く。

『またわたしのこえのことかんがえてたでしょ』

リンクは困ったように笑った。

『わたしはこえがなくてもだいじょうぶ りんくがいてくれればそれでいいから』

「でも、さ…」

リンクが眉をハの字にするのを見てなまえはリンクの胸ぐらを掴んで、



ちゅ

「!」


キスをした。
そしてまた文字を、少し荒々しく書く。

『くちは きすができればそれでいい』

リンクが手から顔をあげると、なまえは顔を真っ赤にして目を泳がせていた。










アイを詠う唇










(なんだか自分まで顔が赤くなって、それを誤魔化そうと今度は自分からキスをした)