「少年少女の初戀」の続き


さく、さく、

ほんの数日前まで歩き慣れていたはずの道を、やや苦戦しながら進む。
数日とはいってもそれは自分にとっての話であって、世界規模だとおよそ7年の時が過ぎている。
自分の故郷が様変わりしているのもじゅうぶんうなずけた。

ただしそれだけの時間が流れてしまった事実だけは、たとえ自分の体が証明してくれているとしても認めたくはない。

相棒の妖精が帽子の外を飛びたがっている気配がしたが、それをさせてやることはできず、「ごめんな」と呟いた。
ナビィを見られてしまえばコキリ族の子たちに自分がリンクだとバレてしまう。
リンクはその考えを振り切るように歩き続けた。











「待ってる、から」











やがて森を抜けると、なまえと約束をした花畑に出る





はずだった。


「…!?」


いろとりどりの花は枯れ、土が剥き出している。
風も、乾いているような気がした。

「そんな……」

きょろきょろと辺りを見回すと、土色の中に一部分だけ緑を見つけた。
目を凝らして見ればそれは少女だった。


「なまえ……」


なまえがわずかに残っている花の前に座り込んでいる。
リンクが近寄れないでいると、なまえの妖精がこちらに気付きリン、と音を鳴らした。
なまえも妖精にならってリンクに顔を向ける。

「だれ?」
「あ……えっと、」
「お兄さん、ソトの人?」

なまえは立ち上がって土埃を払った。
そして体もリンクに向けたが二人の距離は縮まらない。

「そ、そう。外から来たんだ」
「そっか…。でもはやく出て行ったほうがいいよ?この森に入った大人はみんなバケモノになっちゃうから」
「あ……」
「でも」

なまえは首をかしげる。

「お兄さんは森に歓迎されてる気がするの。ソトの人なのにふしぎね?」
「…」

リンクが何もこたえられずにいるとなまえが顔を俯かせた。

「お兄さんわたしのだいすきな人ににてる」
「…!」
「いまは、ここにいないけど」

それは自分だと叫んでしまいたかった。
そしてまったく姿の変わっていない少女を抱き締めたかった。

リンクはぐっと拳を握るとなまえに近付いて目線を合わせるようにしゃがむ。

「今でも、その子が大好きなの?」
「もちろん!」
「もう帰ってこないかもしれないのに?」

眉を寄せるリンクとは対象的に、なまえはふわりと微笑んだ。


「だって約束したもの」
「!」
「リンクが帰ってきたらね、ケッコンしてずっといっしょにいてくれるんだって!そう約束したのよ?」
「そ、っか…」

リンクはさっきのなまえのようにうつむいた。
自分にとっては数日。
しかし世界では7年の時が過ぎ、それでも自分を待っていてくれているなまえに地面がにじんだ。
そんな心境を察してか、なまえが小さな手でよしよしと頭を撫でてくる。

「なかないでお兄さん」
「う、ん」

腕で目許を拭い、立ち上がる。
なまえを見おろして穏やかに笑った。










青年少女の約束










(やがて帰った"少年"は)(とても大人びて笑ったという)