辺りはすすり泣く声と重苦しい空気に満ちている。
リンクを、コキリ族の皆を育て愛してくれたデクの樹サマが死んでしまった。


「………デクの樹サマ…」

リンクは彼の最期の言葉を思い出す。


「……………」


そして広場を駆け出した。











カチャカチャと背中の盾と剣が音をたてている。
そうして走り続けていると、


「……………リンク」


なまえが森の出口に立っていた。


「なまえ……」
「ホントに、いっちゃうの?……」


リンクは顔を伏せた。
なまえはコキリ族の中でおそらく一番、一緒に長く時を過ごしてきた少女だ。他の子とは違う。
リンクにとって少女は"特別"だった。

なまえは俯いたままのリンクに眉尻を下げ、固く握られていた手を引いて走り出した。













迷いの森の奥に向かうなまえの足取りには迷いがない。
対してリンクは手を引かれていなければ背中を向けて走り出してしまいたいくらいに彼女に怯えていた。


ふいになまえが足を止める。

「リンク」

自分を呼ぶなまえの声からは感情が読み取れず、びくりと体を震わせて顔をあげた。



「……!」


目の前には色とりどりの花が咲き誇っている。
それよりもリンクが驚いたのは、なまえが泣きそうな目で微笑んでいたからだ。


「わたし、リンクがいっちゃうのはすごく…すっごくヤだ。でもね」


繋がれたままの手にギュッと力がこもる。


「待ってる、から」
「なまえ」
「リンクがデクの樹サマのようじを終わらせて、帰ってくるの待ってる」
「……うん」
「お城ってどこにあるのか…どれだけ遠いのかわかんないけど、」


繋がれた手がゆっくり離れた。


「早く、帰ってきてね…!」

「…!!」


目の前で揺れる瞳と声に、リンクまで泣きそうになった。
そして声を絞り出す。


「なまえは……おれのことすき?」
「うん。リンクがいちばんだいすきだよ」
「おれも、なまえがいちばんだいすき。だからさ…」


リンクはなまえの手を取り、再び繋ぐ。


「おれが帰ってきたらさ、"ケッコン"しよう?」


なまえ小首を傾げた。

「ケッコン?てなあに?」
「外の世界ではいちばんだいすきな人と"ケッコン"するんだって。デクの樹サマが言ってたんだ」
「するとどうなるの?」

「ずっと、一緒にいられるんだって」


なまえが目を見開く。

「………ステキね、それ」
「だろ?だから…」
「うん!約束ね!ぜったいよ?」

なまえの笑顔にリンクも笑った。











少年少女の初戀










(そうして"少年"は帰らなかった)