(分からない)

この世界では自分の行動で変わる出来事などちっぽけなものだ。
三日間を繰り返し、人は同じ答えしか返さない。
時を戻せば何もかもがなくなる。
そんな世界に少しづつ呑まれる気がしたんだ。




ナベかま亭の二階のテラス。
ふらふらとさ迷っていればいつしかそこに辿り着いた。
もし時間を無駄に過ごしてもオカリナがあれば大丈夫だろう。
そう思って柵に近寄ると、


「あれ、人だ」
「!」


少女が柵に座っていた。
鐘の後ろにいたから、テラスに入ってきた時は気付かなかったのだろう。

「こんにちは。見かけない人ね?」
「ああ…町の外から来たから…」
「そ。大変ね、こんな時に来ちゃって」
(なんだか言葉に適当さを感じるなあ…)

リンクはそう思いつつ少女から町に視線を移す。
三日目だからか、町に人が少ないのがわかる。
ふと子供の手を引いて町を出る母親が目につく。
蒼白な表情の母親とは違い、子供は町の外に出られる好奇心でいっぱいのようだ。


「…………」


やっぱり俺がやらなくちゃこの世界は滅ぶのだ。
剣が折れたってオカリナが砕けたってチャットがいなくなったって!


「なんとか」
「なんとかしようと思ってるの?」


呟きは少女の言葉に行方がわからなくなってしまった。
少女を見れば、無感情な目でこちらを見ている。

「なんとかしようと思ってるの?」
「…そうだけど」
「ふーん」

二度目の問いに答えれば興味無さげな返事が帰ってきた。

「……なに」
「べつに?ただ楽しいのかなーと思って」
「は?」

何を言っているんだこの少女は。
今にも月が自分たちを呑み込みたくて仕方ないというように近付いてきているのに。
そんな状況で楽しいかどうかだって?

「こんな月が落ちてくる状況で楽しいもなにもないだろ」
「あるよ」
「……っ」

きっぱりと言い放った少女に苛立ちを感じた。
しかし少女はにっこりと笑う。


「だって生きてるじゃない!人間はね、やりたいことやるために生きてるのよ?」
「…!」
「失敗してもいいのよ、たまには楽してもいいの、完璧な生き方なんて誰にもできないんだから!」

少女は軽い音を立てて柵から降りる。

「ひとつひとつ抱え込んで一体どうしたいの」
「あ…」
「たとえ神様が望んでなくったって笑いたいときに笑って、泣きたいときに泣いて、自然体でいたほうが私は楽しいと思う」
「……」
「その一瞬はその時しかないんだから、気ままに考えたほうがいいんじゃない?」

少女の言葉に数分前の自分を思い出した。
オカリナさえあれば三日前に戻れる。
しかしまったく同じ一秒は存在しないのだ。

「…なんて」

少女がくるり、と後ろを向いた。

「みんなそんなふうに生きれるわけないよね」
「そんな、」
「そんなことあるよ。ただ…」

再び少女がこちらを振り向く。

「大体それでいいんじゃない?って思うだけ」
「………」

この少女は大概適当だ。
人のことも知らず興味なさそうな感じなのに自分の考えをつらつらと並べる。

「…………もし、あの月を止める方法があって、それをせずに世界が滅んだら?」

少女はまた笑みを浮かべた。


「決まってる!誰もその人を縛ることはできないんだから、世界は滅ぶべくして滅んだのよ!」


なまえの言葉に、リンクは涙を流した。










No Logic










(神様、この歌が聞こえるかい?)(あなたが望んでいなくても)