ハイラル城から北に位置する平原。
そこから私たちは結界に覆われた城に、ただ目を向けている。

「…………」

リンクも何も言葉を発しない。


私たちは旅をしていた。
最初は小さな正義心から始まり、旅をゆくにつれてやがて世界は私たちを呑み込んでいった。

リンクは伝説の勇者、らしい。
旅の中で様々な形で押し付けられたそれはやがて私たちを疲弊へと追い込んだ。


「なんか」
「ん」
「どうすればいいか、分かんなくなってきた」
「うん」
「……なんていうか、さ」

リンクはうつ向き、帽子を外す。


「つかれた、かな」


か細い声は村にいた頃では考えられないほどに弱くこぼれた。


彼は強いのだとずっと思っていた。
事実彼はトアル村では子供たちだけでなく、大人にも好感を持たれるほどの"トアル村の中の"勇者だったわけだ。
しかし予想もしない形で村を出る切っ掛けを与えられ、外に一歩踏み出せば世界は私たちを受け入れるどころか渦中へと誘った。


ざくり


音に顔を向ければ、リンクはマスターソードを地面に突き立てている。

私たちの心境は計り知れない。
様々な感状が相まって交ざり、私が最終的に選んだ結末は。

「ね、」

リンクの帽子を掴んでいる手をとれば、反射的にリンクの手は帽子を地に落とす。



「にげようか」



リンクは目を見開く。
しかしそれは一瞬で、ふっと笑みを浮かべた。
それはかつてトアル村で私に向けられていたものと同じで、思わず私も微笑んだ。

「なまえ」

どちらからともなく手を引き踏み出す。
背中の向こうでマスターソードと帽子の影が揺れた気がした。





















(そして私たちは世界から    )