窓から入ってくる優しい風が頬を撫でる。
ついこの間までハイラルの大地は魔王によって荒廃し、重い空気に包まれていたのでこの風に触れるのもずいぶんと久しい。

「…………」

ゼルダは瞳を伏せた。
この風を取り戻すために、どれだけの犠牲があっただろうか。
渦中の真ん中にいたため目の前で命が失われることも多々あった。
自分はこのまま生き続けるべきではないのかもしれないと、何度も考えた。


(それでもこうして、私は生きている)


それもこれも、彼女がそばにいてくれたからだろう。
感謝してもしきれないほど、なまえには支えてもらっている。


コン、コン、


ノックの音の後に「失礼します」と聞きなれた声。
静かに扉をあけて入ってきたのはトレーを持ったなまえだった。

「なまえ」
「ゼルダ様、お茶をお持ちしました」

なまえは机にトレーを置くと、紅茶をカップに注ぎ始める。

「ありがとう」
「いえ。………寒いのですか?」
「え?」
「外を見て、困った様な顔をしていらしたので…」

カチャリ
ティースプーンが置かれ、部屋に甘い香りが漂う。
ゼルダは目をつむった。

「窓を閉めましょうか」
「いいえ。………なまえ」
「はい」

音でなまえが近付いてくるのが分かる。

「なまえは私の何ですか」
「私はゼルダ様の近衛。ゼルダ様の剣にして盾です」
「…なまえ」
「はい」

目蓋を上げると、やはりなまえは目の前にいた。
ゼルダは迷わずその細い体に腕を伸ばし、抱き締める。
なまえが一瞬、体を強張らせたのが伝わった。
そしてゆっくりと、躊躇うように抱き締め返される。


「もうこれ以上、何も失いたくはないのです」

「…そのために、私がいます」


胸にうずめた顔を上げると、なまえは穏やかな、でもどこか真剣な表情をしていた。
その頬に手を添えると、意図を汲み取ったなまえは顔を近付ける。
ゼルダはゆっくりと目を閉じた。

なまえの淹れた紅茶は、すっかり冷めてしまっていた。










少女は瞬く









(犠牲の上に生きる私が)(彼女からの幸せを求めるのは間違っているのだろう)