「グッバイマイワールド」の続き


なまえは小さな腕で果物が入ったカゴを抱えた。
今日も変わらず村には平和が溢れている。
コッコの鳴き声、ゆっくりと回る風車、せわしなく走る大工、人びとの話し声。
なまえもそれらにまぎれて家へと向かう。

「あらなまえちゃんお母さんのお手伝いかい?」
「うん!」
「偉いねえ」
「なまえ、家に帰るならこの野菜も持っていきなさい」
「ありがとおじさん!」
「あ、なまえちゃんはいこれ」
「たまご?」
「そう!コッコが生んでたのよ!この前のお礼だってお母さんに伝えておいて?」
「分かったー!」

いろんな人に声をかけられて、先程より重くなったカゴを抱え直した。
走ると危ないけれど、長い間食べ物を日にさらすのも良くないので、できるだけ急いで。





そんないつもと変わらない日常の中に、違うものを見つけた。
あれは、


「みどりだ」


全身緑色の服を着た少年だった。
なんだか落ち込んだ様子で柵に腰掛けていた。

(外の子だ)

あまり広くはない村なので村人の顔は覚えている。

(なにか困ってるのかな)

なまえは再びカゴを抱え直し、少年に近付いた。









「こんにちは」
「!」

少年の目の前に立って声をかけると、気が付いていなかったのか、驚いた様子で顔をあげる。
そしてなまえの顔を見ると動揺した表情を浮かべた。

「なにか困ってるの?」
「あ……いや……」
「あなた、外の子よね?」
「……………」

二つ目の質問を投げ掛けると、少年は悲しそうに眉を寄せる。

「はは、やっぱだめか」
「なにが?」
「……………」

ぼそりと呟いた言葉に問えば少年は押し黙り、ぽつりぽつりと弱々しく話し出した。

「この村には…大切な人がいたんだ」
「大切な人?」
「そう。ずっと支えてくれて……何よりも守りたかった」
「なら会いに行かないの?」
「行けないんだ」
「どうして?」
「………その子は、忘れてしまったんだ。俺のこと、俺と一緒に過ごしたこと全部」

なまえは重いカゴを地面に置いた。
なんだか目の前の少年が大人びて感じる。
そして同時に迷子のような印象を受けた。

「悲しいね」
「うん、とっても悲しい。でも何も知らないその子に会えたら、きっと吹っ切れるかなあなんて思ったんだけど…」
「けど?」
「会うのが怖くなって迷ってたら君に見つかった」

少年は苦笑した。
しかしなまえはその苦笑を見て、



「会いにいけばいいじゃない」



けろりと言ってみせた。
少年は目を見開く。

「その大切な人があなたのこと忘れてるなら思い出させてあげなくちゃ」
「………」
「もしその人があなたのこと大好きだったなら、あなたが来てくれないのはすごくさみしいと思う」
「………」
「あなたがそう思ってるように、その人も会いたいって思ってるよ」
「…でもほんとうに覚えてないんだ!あんなに近くにいてくれたのに俺のせいで…」
「思い出せないなら二回目の恋をすればいいんだよ」

なまえはふわりと微笑んだ。


「わたしはずっと信じてるよ」




















(こんにちはわたしの世界)