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差し出されたボールになんと言えばいいか戸惑い、ボールとクロの顔を見比べること数回。

くれるというのだから受け取ってしまえばいい。
ほんの少しだけそう思わないこともないのだが、ボールが絆であるという意見をすぐに自分のものとして考えることが出来るほど、私は楽観的…いや、希望的な思考回路ではないから、自分がボールを所持することについては、やはり納得がいかないのだ。

しかし、それでも、彼が私に抱いて居てくれているその好意の目に見える証として、自らのボールを差し出してくれるその気持ちは素直に有り難い。
少々行き過ぎではないかという気もしないでもないが。
ないが――それも彼の詫びの入れかたであると考えると、無下にしずらいのも確かである。

さて、どうしたものか。心中軽く息をついたその時だ。

「……おい。」
「「!」」

不意に入り口から耳馴染みのある声を聞いて、私とクロは同時に顔を向ける。

「直。」
「直ちゃん、今取り込み中だったんだけど」
「それはどうも悪かったな。お前達、すぐにここを出るぞ」
「はあ?」

直が踵を返すのと、立ち上がったクロが吐き捨てるのはほぼ同時のこと。

「ちょっと、説明ぐらいして欲しいかな。俺とアンちゃんは別に直ちゃんの――」
「ならここで二人で先程の続きをたらたらと続けているんだな。忠告はしたぞ」
「あのっさあ、………っ、」

忌々しげに舌を打って、直を睨み付けるクロは明らかに気が立っている。強く握られた拳が表す感情は如何様なものか。

「……アンちゃん、ごめんね。さっきの話は、また後にしよう」
「あ、ああ…」

クロは立ち上がる私の手を掴み、直の方をちらりとも見ずにそのままかつかつと歩き出す。
後ろを付いてくる直に振り向きつ、「追手か?」と今一番高そうな可能性を聞けば苦い顔で頷くものだから、そう言うことなのだろう。

クロに引かれるようにして部屋を出て、我ながら妙に覚束ない足取りで後を追う。

先程まで座っていたからだろうか。

ふわふわと現実味のない…その頭のなか、妙に頭に残る誰かに見られているような感覚と、つるつるとしたテーブルクロスの感触がぐるぐると回って、何故か感じるのは違和感ばかり―――……

――――。

違 和 感 ?


「………おかしい」

まるで私の心を読んだかのタイミングで前のクロが呟いた。

「どうした、クロ」
「………」

立ち止まる。

「………直ちゃん。」
「なんだ?」
「見つかった、って言ってたけど…何故君はそれをわかった?」
「………」
「人型の君に勘づかれるまで近くに来ていて、何故あちらは攻撃を仕掛けて来ない」
「…………」

クロの言葉を知るかとでも言うように無視して、さらに二人の間の険悪さはじわりじわりと高まってゆく。

ああ、もう!
お前達、こんな時まで歪み合わなくても良いだろうが!
そんなことより、今は一刻も早くここを出るべきで…、



―――ダアァアアン!


突如響いた轟音に廊下のなか、三人身を竦ませて、めきめきとたわむ壁に思わず気を取られ、目を取られる。

―――ドォン!
―――ダアァアアン!

「こ、れ…は」


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