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そうして、森の散策を再開してすぐのこと。
どうやら先程の屋根のように見えた影は本当に屋根であったらしく、私達一行は件の「幽霊屋敷」たる建物を目の前にしていた。

「………蔦が生い茂って、酷いな…」

絡み合う蔦や木の枝は複雑に絡み合い、まるでそれ自身が意識を以て屋敷への侵入者を拒んでいるようだ。唯一辛うじてと視認できる入り口も、これでは若い木で埋まってしまっているようなもの。
これは、心霊スポットとして話題も高まる訳だ。

「管理が辞められてから相当経ったみたいだね。それに、この木は……。ねえ、直ちゃんって居合い切り使えたっけ?」
「無理だな」
「俺も。参ったな、これは一旦街に戻らないと……」

ん?

「戻らないと?一体何故」

危険を犯してまでそんなことをしなければならない。
思わず上げた声に、困ったようにクロが首を掻いた。

「えっとね、こういった細い木は、俺達ポケモンのいあいぎりって技で斬ることが出来るんだけど……残念ながらその技を使える奴が居ないから、」

「まて、クロ」

剣を持たない者がそもそも居合い斬りを使えるわけがないだろうという疑問はこの際置いておくとして、

「このぐらいの細い木なら、幾らでも、どうにでもなるだろう」
「……えっと。」

だから、

「直の火で燃やす…にはここは森だから少々気が引けるにしても、極論よじ登って越えてしまえばいいのだし、それに」

それに。だ。
このような大きさ程度のならば、恐らく……。

踏み締めて、腹に力を込めて、
せーっ、

「のっ!!!」
「!」

みりみりと踏み込んだ足裏に伝導する裂き割れる感触、エネルギーを溜め込んだ木が大きくたわみ、そしてもう一踏ん張り、

「よいしょっ!」

バキッ!
と。
甲高い音を一つ置き去りに、開放されたエネルギーごと地に強く足を踏み締める。


「……ふう。これで、よしかな」

軽く息をついてぱんぱんと手を叩く私の前には、乱暴にまん中からばきりと二つに折られた木。
言わずもがな、私が蹴り折った物だ。

これぐらいの高さであれば、折れた上片を退かしさえすれば跨いで通り抜けることができるはず。

私は思い通りに事が運んだ満足感を抱えて、汗の滲んだ額から前髪を掻き分けて振りかえる。


「流石に一度で綺麗に裁つような真似は出来なかったが、まあこんなもんだろう。……ん?」

「「……」」


どうした二人とも、そんな顔をして。

直は顔をひきつらせているし、クロは呆けて動きを止めている。
そ、そんなにおかしな行動でもあるまいに……いやもしかしておかしい行動だったのか?しばしの沈黙にそう自問自答を始めた頃、クロが正気に返ろうとするように(そして、多分それはそうなのだろう)、ふるると頭を振って困ったように笑った。

「凄いね、アンちゃんは」

「……ん?」
突然飛び出した賛辞の意図が読めずに眉を顰めると、

「そうやって何でも自分でしちゃうんだ。」
「…は?」
「何でもないよ。……何でもない」
「………」


意味を理解しかねるまま一方的に会話を切られてしまった。
まあ、本人が何でもないと言うなら、それでいいのだが…。





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