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「私がお仕事をしている間しか、面会出来ないんですけど……。すみません。」
「いやっ、それでも、ありがとう。すまないな。」
「いえ、そのようなこと!」

ぺたん、ぺたん。

余り心地好いとは言いがたいスリッパの音を引き連れながら、奥への廊下を歩く。このスリッパ、女医さんが私が裸足だと気が付いた時に、それではあんまりだと用意してくれたものだ。
サイズが少し大きいのか歩くたびにぱたぱたと音を立ててしまって静かな病院……じゃなくて、ポケモンセンター、の中では、少し肩身が狭い。


「本来なら、興奮させない為にも誰とも会わない方が良いんですけど、まだ暫くは起きないだろうから、顔を見る程度なら構わないという許可は頂いているので……」


逆に目の前を歩く女医さんからは、ほとんど足音が聞こえない。やはり、患者に対する気遣いの一環とかとして身に付いていることなのだろうか。

そんなことをつらつらと考えながら後ろをついていると、不意に、「…………ごめんなさい。」という声が聞こえた。先を歩く、女医さんの物だ。


「……先程の失礼な態度を、もう一度謝らせてください。すみませんでした。」
「いっ……や、」


でも、女医さんが言わんとしていた事は正しい。自分は確かに、何の関係も無くて……。


「いえ、例え関係が無くとも、自分が助けた方がどうなるか、最後まで見守りたい気持ちはよく分かりますし……。先程のように私に言われるいわれは、本来貴方にはありません。私が謝っているのは、……………。」


そう言って、少し口をつぐんで、開いて、もう一度閉じる。
なんだろう。何か言いづらい事でもあるのだろうか。


「…………ポケモンを、擬人化させる為の薬は、本来は特殊な職業の方にしか扱えないと、言いましたね。」
「ああ。」それは確かに、ついさっき聞いたばかりだ。
「……しかし最近、このような症例が、少しではありますが、増加傾向にあるんです。」
「…………」

ふむ…。女医さんが、どうしてそんな話をし出したのかはさっぱりだけれど、それはつまり、悪い奴が、増えてきたと、言うこと……か?


「いいえ。それも確かに、原因の一つでもあるのですが…。その、最近の症例の特徴の一つに、そのポケモンのトレーナーがごく普通の一般人であるという特徴があるんです。」
「………。」
「もっと相棒と一緒に、言葉を交わしたい。もっともっと、いっそ、相棒が人間だったなら。そう思うトレーナーは、少なくありません。」
「…………。」
「その内、特に思いが強く財力の高い方々が、言葉巧みにブローカーに近付かれ、高い薬を買い込んで投与し続け、その結果、あのヘルガーさんのような症状を出してしまう。いえ、そのようなトレーナーさんは、抵抗出来ないように拘束していたりもしますから……中には、もっと酷い症状の方も多くおられます。」
「…………。」

…………………。
正直、絶句するしか無かった。

だって、擬人化というのは、ポケモンの側が、人間と意思を疎通するために、自分の気持ちで、自分の能力を抑え込む、そんな行動だろう。

それを、こちらの思いで矯正すると言うのは、………どう考えても、間違っている。


「……そうですよね。……ええ、そうなんです。………すみません。」
「ん?」
「私、実は、貴方もそう言うトレーナーだと思っていたんです。」


……………おっ、
………おぉ……。


「そういう方ってやっぱり、合法な薬物では無いですから、自分の手持ちじゃない振りをして預けてとんずらしちゃうんです。トレーナーカードも見せたがらないですし。」
「あー………、な、るほど…」

確かに、今考えてみると、怪しまれて仕方のないことばっかり、だな……。


「でも、貴方の態度を見ていると、そうは思えなくて……すみません。先程は、貴方の事を試したりするようなことをしてしまって…。」
「いやっ、そんな…っ!私は全然気にして無いから…」
「……ありがとうございます。」


安心したように、ふ、と笑った女医さんは、とっても可愛らしかった。




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