1



「ん、待てよ。お前が追われてると言っても私は別にそうじゃないんだから、適当な奴を捕まえて話を聞けば良かったじゃないのか?」
「よくまぁそこまで平和な考え方が出来るものだ。良いとこ捕まえられて実験室送りが妥当だな。この世界での知り合いが一人も居ない人間なんて絶好の実験相手だろう。」

………そっ、

そんなやば気な場所だったのかここ………。

「人間の実験体はそうそう手に入らないらしいからな。で、だ。今俺達が居るのが地下だと言うところまでは話したな。」
「おっ、おうっ、」


先程の口論から少し経って。

私達二人は男の持ち物である地図を覗き込みながら、これからの出方について話していた。作戦会議、という言葉がちらりと頭を掠めたけど、そんな事を言葉に出したらまた馬鹿にされかねないのでお口チャック。
黙って覗き込んで居ると、男の細くてまっちろな指が地図の中の一室を指差した。


「これが今俺達の居る部屋だ。」
「ほう、ここが私達の居る部屋か。」
「……これが、俺と、貴様の居る部屋だ。」
「なぁ、なんで今わざわざ言い直したんだお前。そこまでひとくくりにされるのが嫌か。」
「幸いにあと1階登ればすぐに出口がある。大した仕掛けも無い。」

ふんふん……え?

「……なんだその顔は。」
「い……や、案外、近いんだなと思って…。外に出るの、結構簡単なんじゃ無いのか。」
「お前にとってはそうだろうな。」


ふん、と鼻息。だからお前は、そうやって人を馬鹿にした態度を止めろって何回も言って……え?言ってない?そうだったっけ………また!お前は!


「………まぁ、それについてはもう良い。……私にとっては簡単って事はお前にとっては簡単じゃないって事だよな。どうしてだ?」
「…………。ここの施設には、俺のような脱走者を逃がさない為に幾つかのセンサーが存在している。鳴ると人員が集まってくる事になっているからな。」
「ん?でも、それなら私にも反応するんじゃないのか?」


暫くの沈黙の後、ハァ…と頭をぐしゃりとかき抱く男。
私はそこまでおかしな事を言ったのだろうか。


「ポケモン……を、お前は知らなかったんだったな。」
「おっ…おぉ……。」
「時間が無いから詳しくは割愛するが、この世界にはポケットモンスターという種族が存在する。ポケモン。分かるな。」
「まぁ…なんとなく…。」


つまり、ポケモンと言うのは称号でも何でも無く生き物の種別だったという事か。

話の流れからすると、つまりはこの男が、そのポケモンとか言うもので、ポケモンはセンサーに反応するらしい。だから、逃げにくい…と。
ん、待てよ……、

「なぁ。じゃあポケモンと、人間は何が違うんだ?お前を見た所、特に私とそこまで違うようには見えないぞ。」
「ハァ……。……ポケモンには、擬人化という能力が存在するだけの事だ。」
「それってだけの事じゃないと思うぞ。」

とっても凄いことじゃないのか、それ。

「……ふん。もっとも俺は自分でなりたくてなった訳ではないがな。俺の本来の姿がこのような貧弱な姿であってたまるか。」


今に見ていろ、と唸る男。気迫の余りちらちらとその周囲に赤い光が見える。
……って、いや、


「疲れてる、のかな…」
「どうした。」
「いや、何でもない。…それで、そのポケモンセンサーに反応されるからお前は迂闊に身動きが取れなかった、と。」
「そういう事だ。」


幾らなんでもリアルに幻を見るようじゃ終わってるぞ私。こめかみをぐりぐりとほぐして、ついでに目玉もぐにぐに。気持ちいい。やっぱり疲れてんかなー。


「それで、具体的にどうするんだ?」
「どうもこうも、正面突破しか無いだろう。」
「………なるほど…。」


出口までの距離が身近く、建物におかしな仕掛けも無い現状、例え多少手荒になったとしても強引に突破するのが一番の手立てと言うわけか。

男が、話は終わりだと行動で示すように丁寧に地図を畳んでポケットにしまい込こんだ。畳み込む時には角もぴっちりと合わせて…性格こまけぇなコイツ。


「ポケモンセンサー以外にも監視カメラだってある。追っ手は遅かれ追い付くだろうが、足手まといになるなら容赦無く置いて行くからな。」
「よし、背中は任せておけ!」

冗談じゃない状況だし、のっぴきならない事態だけど。それでも、一人だけでも、信頼出来る奴が出来るってのは良いものだなっ!
私がそう言った瞬間、男の顔が漢方薬でも舐めたかのように苦々しげな物に代わる。………おい、そこまでされると、私も傷付くぞ…?


「………余計なお世話だ。精々自分の身を守ることに集中したらどうだ筋肉女。」
「……なぁー、に、をぉっ!」
「行くぞ。」


がちゃ、鍵を解錠しガラリと扉を開いて。

殆ど同時に、先程頭に入れた地図のコースを辿り走った。


[] BACK []






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -