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「直ちゃん、もう起きてたんだ」
「でなければ目の前にいる訳がないだろう」
「じゃ、訂正。もう起きれたんだね。」
「……」


まあ、何事も無かった私はともかく、あれだけ無茶をしていた直が私と同じ日に行動できているという方がおかしいのだ。
それはクロもまた同様なのだが、自分の事についてはスルーしてしまっているらしい。まあ、何も問題がないに越したことはないが。

ないが…つくづくポケモンは、私達人間とは体の作りからして全く違うのだとこのようなふとした時にすら痛感する。


「で、そっちの失礼な女は?直ちゃんが引っかけたの?」
「センスの無い冗談だな。誰がこんな頭の軽そうな尻軽、」
「誰が頭の軽い尻軽よ!アンタこそしょーもない罵詈雑言ばっかじゃない!」

気が強い子らしい。
目の前、直の言葉に躊躇なく踏み込んでゆくまだ名も知らぬ少女に若干おののきを覚えつつ、自らもようやく立ち上がる。

……さて。


「それで。そちらの…」
「都子(みやこ)でいいわ」
「都子、は私に何か用でもあったのか?私を探していたらしいが」
「別に。ただ、ヒカリ…私の飼い主がずいぶんと気にかけてたから、どんな奴か顔を拝んでやろうと思って。丁度よくその手持ちをみっけたからアンタの場所を教えてもらったとこ」


なるほど、ヒカリ繋がりだったのか。
確かにそれならば私のことを知っていても可笑しくは……と、


「まて、都子、その手持ちと言、」
「教えたんじゃなくて勝手についてきただけだろう」
「うのはだ」
「いいじゃないの、どっちでも似たようなもんよ」
「れの」
「全く違う」
「こ…都子、すまないが先に答えてくれ、一体誰が誰の手持ちだと誰が言った?」
「はあ?そんなの、こいつら二匹がアンタの手持ちだってヒカリが言ってたに決まってんじゃない」
「ヒカリが?」
「別に特別に強調されて言われたわけじゃないけど、ポケモンと人間が一緒に旅しててるって言われて手持ちじゃないなんて殆ど聞かないわよ」


なるほど。

そう考えられても仕方のない世界だということは理解しているとは思っているが、だからといってその誤解をそのままにはしておけないな。
彼ら二人は私の手持ちだというわけではないよ、と私が口を開きかけたその時、

「ああ、でも。確かボール使うのを極端に嫌がってるってシロナがさっき言ってたわね。なる、そういう事か」

彼女は思い出したと手をぽんと叩いて、

「ただの偽善者かあ。わざわざ来て損しちゃった」
「!」

なにが、とかどこが、とだか、では私に他にどうしろというのだだとか、まさか他の物の自由を奪い私のもとに拘束させればいいのかだとかさまざまな言葉が頭をよぎって、しかしそれは口には出さずにぐっと飲み込む。勢いのままに言葉を荒げるのは本意ではない。

「ん…ちがうか。アンタの場合、ギゼンってのよりドクゼンテキってほうがお似合いかもね」
「独善…?」
「そ。独り善がりな判断で、物事の本質は見てないくせに如何にも自分は他人とは違って命を自由を大切にしてまあす、って言い張りたいかんじ。あーんやだやだ、そういう甘っちょろい考え方、私大っ嫌いなのよ」
「な……」


確かに、私の考えは偽善かもしれない、独善的かもしれない。そのようなことを彼女は嫌うのかもしれない。

でも、このように初対面で理不尽に個人の思考を叩きつけられそれでも不快に思わない道理も無いはずだ。

「……貴方に、そのように言われなければならないほどのことを、私はしたか」
「別に。ふうん、嫌いって言われるのが嫌な質なんだ。さぞかし生きづらいでしょうね。」
「……………」

嫌いと言われることを好むような人間はどちらかというと希少な気がするが…。

「じゃあね。」
「あ、」

自分の言いたいことを言うだけ言ってすっきりしたのだろう、かつかつとローファーの踵を鳴らし、歩き去ってしまった。


(さぞかし私みたいな奴の相手をして、優越感が得られているでしょうね!)

(誤解だ!わたしはそのようなこと…)

(うるさいうるさいうるさい、余計な、お世話よ!)



頭の端で溶け消えた言葉は、誰の言葉か。

なにか…… なにか、ひどく懐かしい気がしたのだ。



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くりかえす
くりかえす
くりかえす



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