2



「あくまでも詳しい事情を知っているのは、先程言った僅かな面子に今回の関係者であるもののみです。一般の民間人は知ることない事情です…諸々あり、彼らの野望は潰え、今は一般の会社として再起している…というものが共通の認識になっています。なっているのですが…」

ですが、ということはそれとは異なる現状になってしまっているのだろう。
そして、ずいぶんと長くなってしまったが、きっとここからが本題のはず。

「一年ほど前に、自社の良からぬ噂をたまたま耳にしました。いえ、良からぬとは言っても直接的なものではなく、あくまで断片的な情報を繋ぎ合わせてゆくと悪い予想に繋がるものでしたが」
「はあ」
「……直入に聞きます。貴方の手持ちのヘルガー、彼は違法な実験による投薬を受けていましたね。」
「!」
「分かっているとは思いますが、その薬の開発は主に、このギンガグループで行われていたものです。元はごく正しい機関にほんのわずかに流しているだけだったのですが…」
「……」

嫌な予感がする。

「そしてそのことに気が付くとほぼ同時に、私の知らない水面下で誰が何を画策してかもわからぬ内に何者かの手により身を隠せざるを得ない状況に追い込まれてしまいました。何とかやり過ごしていた時に同じくギンガグループの不振な動きに疑問を抱いていたヒカリさんと会えたのは僥倖でした。」

「待って下さい。それと私に…発信器をつけることに、何の関係が、」
「まだわからないの?」

わからないさ!

吐き捨てたい気持ちを抑えて、声の元へ向き直る。

「シロナさん、その言い方は…」
「あなた程聡い…いえ、賢しい人間ならもう分かっているはずでしょう?」

諌める色の入ったヒカリの声を無視し、続ける彼女。

「あまり私の事を買い被らないで下さい。私は生憎と、聡くも、賢しくもありませんから」

「ほら。充分賢しいわ。あたしもあまり良い性格してない自信はあるけれど、貴方みたいな性格の人間は個人的に嫌いなの。―――いえ、嫌いになったという方が正しいかしら」
「しっ…シロナさん!」
「…シロナさん、言い過ぎです。私達は協力をお願いする立場だと言うのに

「………」


¨私も恐らく、貴方のようなタイプは嫌いだ¨

……だなどという言葉はさすがに余りにも幼稚に過ぎると言うものだろう。ぐっと生唾を飲み込み、目を閉じてゆっくりと呼吸する。
そんな考えを他人に抱くなど、何様のつもりだというのだ、杏。


「……ようするに…ね。私、はじめからアンちゃんがあの会社から逃げてきたこと、知ってたの」
「………ふむ。まあ、そうでなければ、初対面でのあそこで発信器を仕込むようなそんな真似、出来ないからな」
「だからね、つまり、はじめから……囮…として使おうと…思ってたって……事だよ」
「………あ、」


ああ……。

不意に深く納得に到り、無意識のうち、得心のため息が漏れる。


「私はね、アンちゃん…本当なら、彼…クロ君の時に、助けに入る予定だったの。でも実際に使われた者は…彼は、言葉は悪いけど、明らかに切り捨て要員だったから…そんな場所で、私みたいな立場のある人間が既に動いているということを、あちらに悟られたくなかった。」
「………なるほどな」
「それでも、本当に危険な状況になったら助けに入ろうとは思っていたの。何より、アンちゃん達が自分でなんとか事を納めようとしていたから、だから」
「…だから様子を見るに収めたと?」
「………うん。一回退けられたからにはもっと上位の者が来るだろうとは思っていたんだけど、まさかあんなにはやく街を出るなんて思わなくって」

「はは。さらに行き着いた先が相手組織の双角のねぐらだったと来ては、さぞかし驚いたのだろうな」
「……うん。」


今更気が付いたとしても遅いことだが。
あのとき感じていた違和感…それは、つるつるしたテーブルクロスの触感に他ならなかったのだ。
長年放置されて居たにしては埃のない……毎日拭かれているかのような。
状況や断片的な少年の言葉に察するに、あの場所は普段よりあの二人があの場所を生活の場所として使っていたのだろう。

誰かがいるような…とは、恐らくゴーストのせいだけではなく…確かに残っていた生活臭に違和感が働いた結果だったのだろう。

さて。

それで、発信器を仕込まれた理由は納得が行ったが…まだ理解しがたいことはある。



「………それで、協力して欲しいこととは」

私のその言葉を受けて、一瞬ヒカリは息を詰まらせ…そして、ぐっと一つ瞬き、こちらを見据える。

「アンちゃん達にも、一緒に、戦って欲しい。ってこと、かな。」

「………戦う」
「そう、戦う。」




[] BACK []






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -