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「君が、ヒカリさんの言っていた……アン、さんで良いのかな」


席に着いた私に一番始めに話しかけてきたのは、小綺麗…というか、明らかに高価なスーツに身を包んだ青髪の男性だった。
二十代後半と言ったところだろうか。赤い眼鏡がどこか知的な印象をこちらに与えてくる。


「ええと…まあ、恐らく」

『ヒカリの言っていた』…と言われても、その話を直接聞いたわけではないしどうにも返答は曖昧になってしまう。

まあ、(同姓同名の人間が居たならば話は別だけれど、)私の名前がアンであることは確かだ。


「ああ、ごめんね。こんなこといきなり言われても驚いちゃうか。はじめまして、私はサターン。ヒカリさんとは懇意にして貰っていて、君の話は色々と聞いているよ。」

宜しくね。

そう言って差し出された手に困惑しつつもおずおずと差し出し返す。
サターンと名乗った彼は私の無作法も気にせず、差し出した手を洗練された手つきで握り返し……す、すごいな…ここまでいかにも仕事がスマートに出来そうな握手は、私、初めて経験するぞ…

ペンだこのついた白いさらさらな手にほう…と脳内でため息をついていると、

「あら、抜け駆けは狡いわよ、サターン。私達だって話題の野生児ちゃんがどんな子だか興味はあるのに」

艷のある声。
どうやら、丁度はす向かいになる位置に座った、長いブロンドの婦人が言ったらしい。


「はは、すみませんシロナさん。まさか私の隣に来てくれるとは思わなくて」
「まあ。若い子が近くに座ってはしゃいでるのね。ふふ、やらしーい」
「まあ、この年になるとなかなか若い子供との付き合いはありませんしね。否定はしませんが」
「でも大手会社の社長なら引く手数多でしょうに。さぞかしモテたんじゃないの?」
「………元、ですよ、もう。分かっているのにそう言うことを言わないでください」
「うふ」

どうやら二人は、というよりはこの場所にいる人々は互いに既知の間柄であるらしい。
冗談を言い合えるぐらいに仲睦まじいのは…それは良いことなのだが……ちょっと待ってくれ…
正直話についていけない。


「………あの。」
「あ」「あら」

自分のことなのに恐らくという言葉を使うのはどうかとも思うのだが、それでもきっと、恐らく私は不安であったのだろう。
状況が分からない不安。
とても浅ましく身勝手ながら、その不安を弄ばれたように感じたことによる不満もあったのかもしれない。

痺れを切らして話し掛けた私に二人分の、いやそれ以上の視線が寄せられる。


「呼び出されるからには、それなりの理由があるからだと思っていたのですが。私にはまだそれが把握できて居ません、先にそちらを説明して頂いてもよろしいでしょうか」
「…………あー…」
「あらあら」

申し訳なさそうに頭をかく男性と、何を思っているかは分からないがくすりと笑みを漏らした婦人。

……あらあら、とは。意図は読み取れないが、あまりいい気はしないな。
そう思ったけれどどうやら彼女の言葉には続きがあったらしく、身を乗り出すように頬ずえをついた彼女はいっそ不敵と言えるほどに柔らかな笑みを浮かべる。


「若いわね…。それに、ヒカリがどうして貴方を気にかけるのか良く分かったわ」
「うむ?」
「シロナさん」

何故ヒカリが話題に?

そう思ったのもつかの間、ヒカリ本人の制止に近い声をさらりと無視して、彼女は私に言った。


「貴方、彼に似てるのね」
「…それは、どういう…」「―――シロナさんっ!」




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