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もしもう動いても大丈夫そうなら付いてきて欲しいところがある。
ヒカリのその言葉を断る理由はなくて、ゆえにいま私は彼女の後ろをぺたぺたと歩いている。
後ろに足音のしないことが、こんなにも不安になるのだと思いもしなかった。

それにしても何の用なのだろう。
彼女が私にある用なんて…と考えかけて、ああもしかしたら警察の事情聴取のようなものかもしれないなと思い至る。それ以外に思い当たる理由もない。

「ヒカリ」
「うん?」

並んで歩いている間の開いた時間、ふいに浮かび上がった疑問を口に出す。

「何故私達を助けてくれた」
「あっ…うん…」
「確か以前に手助けをしてくれた理由は、先達として旅立つものの助けになりたいから…というものだったな」

「以前」とは、クロと出会う前の、一晩の野宿を終えたあとでの出会いとお買い物の件だ。あの時もあの時で突然の厚意に随分と驚いた記憶があるが、どうやらこの世界ではそういった人々の間での助け合いというのはごく当たり前に行われている行為らしい。

「しかしそれにしても今回のこれは明らかに「先達として」といった簡単な好意で軽々と手を出せるようなものじゃないだろう。」

それに、どうやってあの館での出来事を知ったのかという謎もある。
歩き始めて目がさえてきたのか、今になれば次々と疑問点が浮かび上がってくる。

「…そうだよね。まだまだわかんないことだらけ、だよね…。ごめんね、それも、着いたら話すよ」

着いたら…か。ううん、一体どんな場所に向かっているのだろう。



特に外に出ることもなく、ポケモンセンターの中、少し奥まった部屋の入り口でヒカリは立ち止まった。

「着いたよ。」
「ふむ」

しかし大きく息をついた彼女が扉に手をかける気配はない。

「どうした、ヒカリ。気分でも優れないのか」
「ううん。……アンちゃん」
「なんだ?」


「……ごめんね」


「え?」
「ううん、なんでもないの。ごめんね、わがままに付き合わせちゃって」

そんな、わがままだなんて。
そんなこと少しも思っていないのだから、それこそ気にしなくとも良いのに。

「それじゃあ、開けるぞ?」

曇った表情は変わらないのが少々気になるが、特に止める様子がないので思い切って扉を開けてみる。
ぎい、と音を立て扉は案外簡単に開いた。私たちが宿泊していた部屋はスライド式のドアだったけれど、ここは普通にノブによる押し引き式らしい。

扉の中では、質素な長机を幾つか並べたものを取り囲むようにして数人の男女が真剣な様子で向かい合ってたる…いや、話し合っていた?私が扉を開いたことで中断してしまったらしいが、どうもそんな雰囲気だ。
いきなり扉を開いた私を見て彼らに一瞬剣呑な光が宿るが、「失礼しますっ!」と後ろから覗いたヒカリの顔を見てそれも霧散する。ヒカリ、ヒカリちゃん、ヒカリさん…次々と呼ばれる彼女の名前に、尊敬や親しみはあれど敵意は見当たらない。


ひょこりといとも簡単に部屋に飛び込んでしまったヒカリを追い、私もその中に足を踏み入れる。

「失礼します。」

後ろでにドアを閉めて、さてどうしたものか…取り合えず周囲を見回すと「こっちこっち!」と明るい声。

彼女は既に自分の席を持っていたようで、その隣に折りたたみの椅子をずりずりと寄せて私に手招きをしていた。なるほど、そこに座れということか。

それにしても…この集まりは、なんの集まりなのだろう。
そこまで歩き寄ろうとする最中に、私に浴びせられるのは好奇の視線。敵意でないだけいいけれども、しかし中々に居心地の悪いものであるのに変わりはない。


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