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状況の移り変わりが激しく、今何が起こっているかすら充分に理解できない。
そんな人間が取れる行動と言ったら限られたもので、


「――――アンちゃんッ!!!!!」
「…え、」


今何が起こっているかすら充分に理解できてすらいない人間が取れる行動と言ったら限られたもので、凍り付いたように足を目を息を止めた私に、つんざくような叫びが届く。
その叫びにびくりと硬直を解いた瞬間、クロが私の手を引き、それを支点に自らの体と私の体を入れ換えたその勢いで私は床に体を強かに打ち付ける。

「くっ、……クロッ!?」

身を起こしてそちらを見れば、先程まで私の後ろにいた直が忽然と消え失せ、代わりに一匹の漆黒の獣がクロへと飛び掛かる姿が見えた。

ヘルガー。

目を見開いた刹那、それを覆い隠さんとでも言うかの如く壁がたわみを解放し、轟音。ついに壁に穴開きぱらぱらと木片や壁材の細かく飛び散るなかには、同じように無造作に飛び出す人影がみえる。

廊下の壁に背をぶつけ、這いずるように身を起こした青年の姿は嫌と言うほど見慣れたもので。


「な…お…!?」
「来るな!!!」

駆け寄りかけ、強い語調に思わず足を止めたその寸差、目の前をかするようにバキバキバキ!と床が突如凍り付き、その軌跡は倒れた直へと続く道を走る。
慄きたたらを踏むように後ろへ下がると、直が手を一閃、遅れて朱炎が迸った。
ジュッ――ウウ――……と余韻を残して、激突したそれらは白く濃い煙を生む。
その向こうで影がちらちらと動いて見えるのは、クロが原型に戻り戦っているからか。獣の唸り声を聞きながらも、私には何もすることが出来ない。

私には、何もすることができないのだ。

そのことに気がついて、冷たくなった指先が、膝がわなわなと震えだす。

私には何もすることができないのだ。

事実をまざまざと突きつけられ、息を荒く後ろへ後ろへ、逃げるように下がる私の視界で、水蒸気が薄く揺らいで、一筋に導かれるようにかき消える。

現れたのは紫苑の髪を棚引かせる、幼女と言って差し支えないちいさな体。
闇夜のなか、フリルがひらめくドレスに、手に持った一本の槍の刃が照り返す光が散っている。



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