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「ら、ら、ら」
花咲き、乱れ、舞う。
軽やかな歌声。
少年が体を翻すに合わせてふわりはらりと舞うその髪は、違いもしない発色のよい淡紅。夜道の灯りにその色は照りかえり、浮かびあがるようにその存在感を辺りに振り撒く。
「…………」
「ら、らん…」
しずやかに後を追うは、闇夜に霞む紫苑色。
その長い髪と同色の風にひらめくドレスは、ともすれば少年より人目に付きやすそうなものだけれど、不思議なことに――おそらくはその少女の幽玄な雰囲気に中てられて――見事なまでにその中に溶け込んでいた。
「ら、ら――」
「……キョウ。」
踊るように、くるくる、歩いていた少年は立ち止まる。振り向いて、文句でも言いたげに見つめる先は少女の無感動な瞳。
「なんだよ紫紡」
「夜。余り、目立つような行為は。いけない、わ」
まるでやんちゃな幼馴染みを咎めるような。そんな例えがぴったりと当てはまるような少女の一言。
そしてそれは例えに終わらず、事実でもある。長い付き合いの二人であった。
「へえ、お前。」
僅かに咎めるような声色に対し、少年は何でもないかのように軽い言葉。
反省などという単語とはまるでほど遠いその軽みで、しかしことばはやはり投げかけられる。
投げかけられるのだ。
「――お前、いつから僕に指図できる位まで偉くなったわけ」
「!」
少女の反応は劇的なもの。もともと蝋人形のような白さをさらに薄くして、青白いといって問題ないほどのおもてを伏せる。
二人の付き合いは長いものだった。
そしてその長い付き合いのなか、異質にねじ曲げられてしまっていた。
小さく震えて、折檻を待つ子供のように身をじっと縮める少女を見る少年。
「かわいそうなやつ。」
あくまで軽く、紙くずでも投げ捨てるような重み軽みで、少年は見やったのだ。
「……お前みたいなタイプ、死んでも抱いてやらない」
その言葉は何を示すものか。
満足したように少年は再び歩き出し、少女は震えわななく体をそのまま、健気に付き従う。
月の明るい夜の話であった。
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