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「クロ!?どうしてお前がここに」
「良かった、……良かった……!」
「……?」
「アンちゃん大丈夫、大丈夫、もう終わったから」
「終わった?少し落ち着け、私は何とも…」
「ゴースだ!妙に気配がすると思ったんだ、この館は野生ポケモンの巣窟なんだ!さっきはあやしい光で…、危ないところだった、本当に何とも無い?」
「……巣窟……なるほど。」


断片的にではあるものの整理されつつある脳内で、なんとなくではあるものの状況を察して嘆息をつく。またポケモンか。
つまり先程私が感じた違和感というのはまさにその野生ポケモンのもの、先程の白昼夢は彼らの「技」に因るもの(原理は正直わからないし自分が何をされたのかもわからないけれど大事はなさそうだ)であること、今クロが助けに入ってくれたことで大事には至らなかったということ。
これはまた、申し訳ないことをしてしまったな。

「クロ。そう敵意を剥き出しに威嚇するな」
「でも」
「クロ。分からないか。やめなさい」
「……でも!」

明らかに敵意を放っているのだろう、そうでなければ「巣窟」と言わしめる程のここで彼らの一を傷つけ、その上で辺りが依然静かである理由がないからだ。
言わば私はクロの実力に守られていることになる。
しかし。

「さっきだって、俺が来てなければ」
「さっきのことはありがとう。確かに一人で行動しようとしたのはまずかったな。私の考え方が甘かったよ、助かった」
「なら!」
「しかし。やりすぎて恨みを買うようではそれこそ本末転倒だろう。元々邪魔をしているのはこちらなんだ、然るべき対処をしてお互いに距離を置くための行動はしなければいけないだろう。今回、無闇に彼らを刺激するような真似は避けた方が得策ではないか」
「……」

納得仕切れては居ないのだろう、厳しい表情のままのクロを見て軽くため息を一つ。

「よもや、恨みを上回る恐れを与えてしまえばそれで解決するとは思っていないだろうな」
「!、それは、ちが……」

弾かれたように顔を上げ、言いかけ、そしてそれは最後まで言い切られることはなく立ち消えてゆく。
否定は出来ないのだろう。そのような考えが根本にあったのだと、言われてみればという辺りか。

「野生の動物の本能のようなものだ、幾ら人の姿をしていたとしても獣は獣、断ち切れるような考えではないだろう」
「………」
「それでも。私は、他ならぬお前たちが人であろうとしたその結果は重んじるし、だからこそ、人として最低限守るべき文化的な生き方は、私と行動を共にするからには守って貰いたいんだ。理解できないというなら、それでも良い。離れてもらって構わない。惜しいが、仕方の無いことだからな」
「…………」


ふむ、反感を与えてしまったかもしれないな。
俯いたままのクロを見て暫く、何の言葉も発さない彼にそんなことを思い始めたころ、不意に張り詰めた空気が和らいだ。

「…やっぱり、アンちゃんはすごいや」
「…………驚いたな」
「うん?」
「いや…いい。何でもない」

まさか本当に威嚇を解いて貰えるとは思わなかった。相容れずに見限られても仕方がないと思っていただけにそれは私にとって、割と驚くべきことだったのだ。
野生動物は臆病だ。そしてどうやらポケモンも同じようなもの、らしい。仲良くなりたいとまでは思わないけれども、憎まれているのと無関心であるの、どちらの方が安全かというのは考えてみれば分かりきった話だ。

「でも、野生のポケモンの大半は人間を警戒しているし、自分の縄張りに入ってきたものを攻撃するよ」
「そうだな」
「そうだな、で終わらせてもいい話なの?これは」
「……何故終わらせてはいけないのか、よく分からないのだけれど」
「…………」

だって当たり前のことではないかそれは。
あちらは本能で生きる動物なのだから。判断能力思考力その他もろもろ土台からして違うのだから、入ってきた何者かがどんな事情を持っているのか等そのようなこと関係ない。
外敵と思われるような行動をしたこちらが悪いという話だろう。

「……もしかして、アンちゃんって、ポケモン至上主義タイプの人間だったりする?」
「は?なんだそれは」
「ポケモンは人間が守るべきもの、っていう考えを元に行動する人達のこと。」
「…ううむ」

妙な誤解を与えてしまっただろうか。
原因は…と考えてみたところで、思い当たりが自分で分かるわけもない。

「……上手くは説明出来ないのだが」

動物は、考えられない。故に本能での行動は仕方ない。
人間は考えることで生き延びてきた。考えると言う行為そのものが、人間の一番の特色であるとも言える。故に。
故の。


「私は、出来ないことをしろとは言わないよ」
「………!」


獣に本能での行動を止めろとは言わないように、人に生肉をかじり野に同じ暮らしが出来ないからと言って、責めたりはしない。

「ん…いや、少し違うな。出来ないことが出来ないのは仕方ないと思っている…んん、」
「………アンちゃん……」

あ?どうしたクロ、そんな泣きそうな顔をして。

「俺、頑張るね……!」


そうか。それは何よりだ。


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