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ぎちぎちと音を立てんばかりにきつく締められたクロの手の内、ミミロルは苦悶の表情で必死にもがいてはいるがその力が緩められる様子は無い。
「クロ!」
「……うん?ああ、アンちゃん…やっぱり頬が赤くなってるね。痛くはない?」
「……それ、どころじゃあないだろう……!」
こちらを振り仰ぎごく人当たりの良い笑顔を浮かべるクロに、ぞくりとうすら寒い物を感じた。
何かを進行形で苛んでいる身で、それにも関わらず浮かべている表情はごく日常のそれで、だからこそ、その穏やかで柔らかい笑みに唖然として。
私の驚きを敏感に感じたのだろう、直がせせら笑った空気に慌てて正気に帰ってクロの腕にすがり付いた。
すると意外にあっさりとその手の中からミミロルは開放され、素早く茂みへ入り込んでしまう。
「…」
申し訳ない事をしたな。
「あー…ごめんね、嫌だったかな。確かにアンちゃんが好きそうなことじゃあないな。いけないね、こんな、すぐに力で従えようとすることは」
「……お前は、」
「うん?」
「お前は、他人に依る好き嫌いで行動指針を決めるのか?クロ」
思わず窘める口調になってしまい、しかし、だって、それとこれとは違う話だろう。
簡単に他人を傷つけてはいけないだなんて当たり前のこと、それは人として生きるために最低限必要な社会のルールではないか。
「………うん。ごめんね、あの言い方も違うね」
わかったなら、それでいい。
いや、そもそも私がそんなこと言える立場にはないのだが。
「……続きを探そう」
居心地の悪さを振り切るように踵を返してその場を後にした。
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