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ばさばさばさばさ!!
ぎゃーーーっぎゃっぎゃっぎゃ……

突如森に響いた鳴き声、羽音に胡乱気に空を見上げる。
暗い森の中、空はごく狭い。

「……なかなか、鬱蒼とした森だな……」

木陰で日光が上手い具合に遮られるのは喜ばしいが。

「んー、まあ、シンオウだからねえ」
「シンオウ?」

センターでお世話になっている間に一通り教えてもらった町の名前の中には少なくとも聞き覚えがない。では森の名前だろうか、そう思って反復すると「うん、カントーとかイッシュとは違って、こっちは広大なと自然とやらが売りになってる土地柄だからね」とクロからの言葉によりシンオウがこのあたりの地方名であることが発覚した。

「おっと、……危ないな、木の根が張り出してたのか」
「気を付けて、暗いから足元は危ない」
「ああ、ありがとう。直ー、お前も足元は気をつけろよ、転んだりなんかしたら大変なんだから」
「誰がそんな無様な真似をするか」

一人離れて後方を歩く直へと言葉を投げれば、帰ってきたのがそんな言葉で思わず苦笑が漏れる。あそこまでつんけんした態度を取らずとも良いだろうに……ん?

「………」
「どうした、クロ」
「あっ、いや。……ただ、失礼な奴だと思ってさ」

なるほどな、それでそんな機嫌の悪い顔をしていたのか。
機嫌が悪いというか、少し……そうだな、一般的に言う「怖い」顔。

「…まあ、直はあの性格だからな……。おっ?」

適当に藪をかき分けた先に、褐色が目についた気がして目を凝らす。ぐい、と身を乗り出して、森の中ではなかなか見ることのない色だ、もしかしたら件の幽霊屋敷の外壁や屋根が見えたのかもしれない。そのままばさばさとコートの分厚い生地で藪をかき分け進む。

「アンちゃん、あんまり一人で先に…」

いくのは、というクロの声にかぶせてがさりと一際大きな音を立てて藪が揺れた。
何かしらの反応を取る間もなく、俊敏な勢いを以て飛び出してきた茶色の何某か、それが攻撃性を持った鳴き声とともに私のほうへ思い切り踏み込んで来、

「アンちゃん!」「っ、」

バシッッッ!

思わず咄嗟に振りぬいてしまった足に思い切り衝突、(私が思い切り蹴り飛ばしてしまったともいう)そのままがさがさと音を立てて地面を転がる。
一瞬、辺りが水を打つような静寂に包まれた。

「す……、……すまない…」

ものすごく綺麗に決まった感触がしたな…。
い、いや、そんなことを考えている場合ではない!真顔になっているクロとその後ろから小馬鹿にした顔で皮肉げに笑ってくる直の丁度前当たりに転がったその生き物に、小走りで駆け寄る。

「思い切り蹴ってしまったから、大事はないといいのだが」
「…ッロル!」

駆け寄って…駆け寄ったはいいが、跳ね起きたそれに思いもしなかった速さで顔に飛びつかれ、そのまま、

「っ、」

パァン、パアン!

強く顔面を叩かれて視界にぱちぱちと火花が散る。
思わず眩暈がして、「アンちゃん!」少し離れたクロの声を聴きながら後ろに倒れそうになったところを、タイミングよく華奢な手に支えられる。無様にも地面に尻餅をつくようなことは避けられたらしい。

「直。済まないな」
「……ふん。無様だな」
「返す言葉もない、ところで先ほどのあれは」
「ミミロル。このあたりに生息する野生のポケモンだ。大方お前に縄張りを荒らされたのだとでも思ったのだろう」
「そうか…それは悪いことをしたな」

ところで、そのミミロルとやら本人は?
そう尋ねると、直がつい、と視線を逸らした。その視線に誘導されるように同じ方向へ目を向ける。

「る…るる……」
「……………」

向けた瞬間、確かにさあっと顔から血液が引く音を聞いた。


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