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………ゆ、


「幽霊屋敷……とは。どういうことだ?」


あまりに突飛に現れたそのワードに、正直なところ、驚きだとかよりかは、困惑が隠せない。
それもそうだろう。旅をするに、何か目標を定めようとの提案を出して、出てきたのがそれでは誰にしろ少なからずの不審を抱いて普通の事だと思う。


「んーとね。結構昔からあるらしい建物なんだけど、ハクタイの森の中にそういう……一種の胆試しスポットみたいなのがあるって噂を聞いたことがあるって話でね」
「…………ほう」


そこで出た直の、どこか肯定的な響きを持った反応になんだか意外な気分をすら覚える。
それが態度に出てしまっていたのだろう。じろ、と直の冷ややかな眼がこちらに向けられ少々ばつの悪い気分になってしまう。


「なんだその顔は」
「……お前のことだから、てっきり『くだらんの』一言でばっさり切ってしまうのでは、と思っていたから」
「ふん。」


ふん、といつも通り鼻を鳴らして、顎をしゃくる直。ただでさえ高圧的な態度がより際立たせられるその仕種ののち、口を開く。


「案外、役に立つかもしれんと思ってな」
「…と、いうと」
「幽霊屋敷という噂の立つ位だ、そんな場所に入り込むのは好奇心のある子供か野生ポケモンぐらいだろう」
「ふむ」


直が言いたいのは、そういう場所ならば人目にも付きづらくまた住み付くにも(宿賃的に)問題が少ないということを言いたいのだろう。
しかし、それに異を唱える声が被さった。


「………でも、提案した俺が言うのもだけどさあ。そんな場所があるってのがあんまり娯楽に興味深々だったわけでもない俺にまで伝わるほど有名なスポットだったんなら、“直ちゃんの”逃げたがっているヒトたちにもお見通しだと思うんだけど」
「確かにそうだな」
「……いや、そこについてはなんら問題は無い」
「なんで?」
「…………」


そこで直はいつもより少し大きめに溜息。だけどそれはいつもの相手に聞かせるための皮肉ではなく、ただ苦々しさのみを私に感じさせるもので、それがまた私の不審を誘う。
まるで自分の嫌な面を渋々晒させられているような。


「…恐らく、一旦街さえ出てしまえばしつこく追って来ることはないだろうと俺は踏んでいる」
「……へえ。」
「たかが実験動物の一匹、目の前をちょろちょろしている内には手も出すかもしれないが、一旦手を離れてしまいさえすればもうそれ以上の手間をかけさせるほどの価値をあいつらが俺に見出しているかは甚だ疑問だからな」
「…………」
「長らく滞在することは難しいかもしれないが、旅の小銭稼ぎをするまでの仮の住居とするには問題ないだろう。そういうことだ」


つらつらと冷ややかかつ淡泊に連ねられた直の発言に、なるほど、といつものように頷きかけ、やめる。

たかが実験動物の一匹。

手間をかけさせるほどの価値を見出しているか。

それらの言葉に、直の境遇を重ね、現れた事実に私は思わず立ちあがって、


「なお!」

「ああそうだ。それで、まさかとは言わんが、助ける等と言ったたわごとを抜かすつもりじゃあないだろうな」


立ち上がって、すっかりと読まれていた居たことに言葉を失ったところで「ちょっとちょっとちょっと」と、クロの割り込む声。


「ごめん、ちょっと話題に付いていけないんだけど」
「……ああ、クロ、」
「貴様には関係の無い話だ。」


間髪入れずに返されたすげない返事に今まで笑顔を保っていたクロの目がすっとすがめられる。
あ、何だか嫌な予感。


「………何それ。喧嘩売ってんの?」
「そう思うか?」
「あのっさあ。」


挑発的に相手を笑う直に、明らかに苛立ちを含んだクロの声が。
笑顔は完全に消えている。


「前から思ってたけど、別にベタベタしろとは言わないからせめて関係を良好にしようとぐらいしない?お前が嫌われようが気にしないけど、付き合わされるこっちの気にもなれよ」
「嫌ならお前が付いてこなければ良いだけの話だ」
「じゃあ言うけどよ、別に俺達が"お前"の我が儘に付き合ってこの街から出ていかなきゃならねえ理由こそねえだろうが。なあ臆病者、手前こそ自分の立場考えた方が良いんじゃねえの?」
「取り繕ったボロがもう出たな。しっぽ振り振り拾ってくださった相手に付きまとい、いかにも元飼い主の育ちの知れる汚い言葉使いを必死で押し隠して、まあご苦労なことだ」
「………テメェ!」



バン!!!!!!!!!!!



びりびりびり……とベンチが震え、穏やかな筈の広場が水を打ったように静まりかえる。

その原因となる音を立てたのは拳を振り上げたクロではなく、襟首を掴まれ相手を睨み付けていた直でもなくじんじんと痛み続ける私の掌。

潜めた声と窺うように見る視線を感じながら、顔を上げる。


「二人とも。互いに熱くなるばかりでは何にもならないと、そのようなこともわからないのか」
「…………」
「…………」

「直の話は後回しにするとして。クロには私から事情を説明する。頭の冷えた頃にな。それでいいだろう」
「…………」
「…………」

「返事は!」
「………ああ」
「………ん」


芳しくない返事に、やれやれという気持ちを込めて軽く息をついた。
ああ、全くもって、先が思いやられる。



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