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そう、援助───ポケモンセンターにお世話になることで生じる問題の一つであり最重要課題。金銭問題。

身一つで飛び込んだ私は勿論のことついぞこの前まで実験室で過ごしてきた直が持ち合わせている訳も無く、つい先送りにしてしまっていたこれはクロという存在が私たちに同行するようになったことで解決を見た。

こんな事件のことを「丁度良いタイミングで」等と評することはとても不謹慎で、しかしそれは事実「丁度よい」タイミングだというには相応し過ぎていた。
もしもこの事件がなかったならば私たちがお金を払えなかったのは紛れも無い事実である。

その場合、具体的にどうするのかといった知識は持ってはいないからなんとも断定はしずらいのだが、戸籍もない人間の手続きにはやはり難しいものがあるだろうし、これまでのことを詳しく聞かれれば答えない訳にはいかないだろう。
記憶喪失ということにすればその場は切り抜けられるのかも知れないが、そうなれば今度は警察にお世話になり、私の身元を捜すということになっていた筈だ。そのように事態がどんどん大きくなってしまった先にどうなってしまうのかということが全く想像できないし、何より―――嘘を吐くことは、なるべく避けたかった。

だから、このような形で問題が解決できたのはとても喜ばしいものであるはずなのだけれど、こうなったらこうなったで今度はその「丁度よい」という事実が非常に心苦しいのだ。

けしてよかったなどと言ってはいけないことであるし、それに、これではまるで、金銭面での援助を期待して同行を許したようなものではないか。
事実そうであるならまだ堂々として感謝もいえようものなのだけれど、実際は考えてもいなかった幸運だっただけに――ああほら、また。幸運だなんて、私は。

そんな事を考え込んで思わず苦い顔をしていると、無意識の内に俯かせていた頬に不意に手が添えられた。
そのまま上を向かされた視界にはやや笑んだクロの顔が目に入って、その暖かさすら感じさせる表情に若干クロに対して引け目を感じていた私は思わず怯んでしまう。


「ありがとう」
「………」


何が、と口を開く前に、更に重ねるようにクロの声。


「俺のことで、そんなに考えてくれてありがとう。」
「………」
「今までそんな風に俺のことを考えてくれたひとはいなかったから。俺はそれだけで十分だ」
「………こちらこそ。」
「うん?」
「こちらこそ、ありがとう。クロがいたおかげで、――助かった。お前が居てくれてよかったよ」
「……うん。やっぱり、ありがとうの方が嬉しいな」

頬に当てられていた大きい手が背中へと滑り、ポン、と私の背中をおす。
ほら、直ちゃんの方も話が終わったみたいだし、行こうか。その声と共にカウンターの方を振り仰げば、丁度ジョーイさんと話を終えた直がこちらに向けて歩いてくるところだった。



「――アンさん!」



そのとき、耳に届いたのは、他でもない直が話していた例のジョーイさんの声。
私が意表をつかれ、直が鋭く振り返って。


「直さんを、宜しくお願いします。」



静かに頭をこちらに見せる彼女に、私はただ頷いた。






(わかっていた)

(わかっていたわ)

(名前を呼べば後で怒られることぐらい

(でも)


(それでも 言わずには居られなかったの)


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