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「502番さん。ご退院おめでとうございます。」

そうかけられた声に私は顔を上げた。この数日間でなじみになりつつある顔を見つけ、自然と頬が緩む。

「ジョーイさん。」
「ふふ」

いや、まさか最後の会計のときにも会うことになるとは思って居なかった。
私が初めてこちらの世界でお世話になった看護師さん…もといジョーイさんで、初めてまともな会話の成り立ったひと。番号で呼んだのは個人情報の取り扱いに当たるからだろうか。

「じゃ、こっちからお願いします」

そんな声と共に私の隣からジョーイさんに向けて数枚の紙幣を取り出したのは、今回の騒動から私たちと行動を共にすることになったクロ。


「申し訳ないな……」
「気にしないでよアンちゃん。どうせ使うことなんて殆どなくって余ってるぐらいなんだから」
「いや、しかし」
「本当はこんなんじゃ足りないくらいの――そうだね、『恩義』を感じているんだから、これぐらいのことはさせてくれたら嬉しいかな」
「………」


一人少し離れたところから窓の外を眺めていた直はクロのその言葉を聞くと、ふん、といつも通り気に食わなさそうに鼻を鳴らした。貸しを作ったのが癪だったのかもしれない。
支払いを終えた私たちがカウンターを離れると、その直がかつこつと足音を鳴らしてこちらに近づいてくる。すわなにをするつもりだと心中身構えていると、一瞬クロの前で立ち止まった直はそのまま何をするわけでも無くカウンターへ向かってしまった。

何処か安堵するとともに、何故だか少しだけ残念でもあって。
もしかしたら礼でも言いにきたのかと少しだけよぎったのだが、やっぱりそれは思い違いに過ぎなかったらしい。

そのまま見ているとカウンターのジョーイさんから袋を手渡されているから、今後のためのお薬を頂いてるのだと分かると同時に、完治したわけではないのだと思い知り胸の奥に冷や水が流されたような気分になる。

直は私に自身のことを話さない。私だけではなく、それは他の人にも同じことなのだけれど。だから私は直の体調がどうなのかというところを詳しくは理解していない。ジョーイさんに尋ねてみたこともあったが、「トレーナーさんでもあれば、それはまた違い、本人がたとえ嫌がっていたとしても話す義務が生じるのですが……本人が話していないことを私が言うわけにもいきませんから」と困った顔え言われてしまえばそれ以上食い下がる訳にもいかなかった。
退院を許してもらえるということはそれなりに良好であるということなのだろうけれど、それでも心配なものは心配だ。
心配しても私が出来ることはとても少なくて、それこそ今回のクロの援助がなければこの薬についても貰うことが出来なかったのだから、何も相談する必要はないというスタンスも理解できなくはない。




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