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「……………」
何もそんな、相手を挑発するような言葉を言わなくても…と顔を引き攣らせる私の前で、手を握られた直が、一つ息をつく。
離せ、とその手を払ったかと思うと再び私に向き直った。
そして言葉を紡ぐ。
「正気か」
正気か。
そう、クロを同行者に加えることに、普通はそう思うだろう。
「こいつがしたことをよもや忘れたとは言わないだろうな」
「忘れては、いないさ」
特に直接刃を交え、そして追い詰められた直は、より禍根が色濃く残っているのだろう。
こいつは、その体調を圧してまで戦って、あわや倒されるところであったのだ。あの場でそれが何を意味するか。
それは再び、例の地下実験場へ戻されることを意味する。
何も思うところがないとは、言えないだろう。
それも、たかが三日程度では。
「こいつ、クロがしたこと。今までしてきたこと。例え法に触れないことだとして、良いことをしてきたとは思えない。それでも、こいつが私達と共に行動したいと言うのだから、私はそれを尊重したいと─────」
「待て。」
言葉を遮る直。
「お前は、それで良いのか」
「…………うん……?」
質問の意図が読み込めず、小首を傾げて補足を促す。
「だから、お前は嫌ではないのか。許せるのか、そいつを。行動を共にし、無防備な姿を見せることも許せるのか」
「…………寧ろなぜ、許せないと思うんだ?」
「………………」
意味ありげな沈黙に慌てて今までの会話を思い返す。
なにも、おかしいところはないと思うけれど………あっ、
「直が嫌だと言うならば、そこは申し訳ないと思う。確かに実際に傷付けられた直なら、文句を言う権利もあると思うし、」
「もういい」
「どうしても嫌だと思うなら何かしらの制約をつけてもらう形で───………え?」
「だから、もういいと言っているだろう。」
呆れたようにため息をつく直。
今まであれだけ渋っていたのに、いや、もっと渋ってもおかしくないと思っていた予想が外れ、その呆気なさに目をぱちぱちとしばたたかせる。
「わー、直ちゃん、ありがとー」
「その直ちゃんと言うのを辞めろ。気色悪い」
「えーひどーい。俺なりのフレンドシップだよ?」
「馴れ馴れしい」
けらけらと笑うクロに、嫌そうにいなす直。
取り敢えず一つの山場を乗り越えたことを悟って、私は安堵で肩の力を抜いた。
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