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「もともとは俺、野生のポケモンだったんだよ」

「……野生……?」


……野生とはどういうことだ?

言葉の意味自体は、そのまま、野に生きる、という意味なのだけれど………。問題はクロの口振りにある。まるで、野生に生きるのが当たり前のような……つまり、この世界には、あのような摩訶不思議な生物がそこらじゅうに生息しているということなのだろうか?口を開きかけて、つぐむ。
そうだ、昨日──そう、もう色々なことがあったせいでずいぶんと昔のことに感じられるが、つい昨日直に教えて貰ったばかりじゃないか。

ポケモンは、この世界における、私達人間以外の動物の総称だと。


「野生のポケモン……だった。」
「そう。まだ擬人化も出来ないし、進化もしてない弱っちい雑魚いポケモンでさあ。ズバットって言うんだけど。知ってる?」
「いや……知らない。」
「……………」


ちょっと驚いた顔付きでこちらを一瞥するクロ。ああ、そう言えばこいつには私の境遇は話しては居なかったんだったっけな。そんな必要も無かったからなあ。

「………アンちゃんってさ、もしかして、結構な箱入り娘だった?」
「………うー…ん……まあ、そんな感じ、だな……」
「ふうん……」


箱入り娘。まあ、確かにあっちじゃあ大事に大事にされて来てたから、まあ似たような物だろう。鷹揚に頷くと、クロはまあいいかと再び自分の話に戻った。


「それで、マスターの話だけど。俺がマスターに初めて捕まえられたのは……ひい、ふう、みい……じゅういち、……ざっと十三年前ってところかな。」
「ほう。」
「マスターは当時十の小坊主だったし、俺なんか生まれたてのひよひよ。マスターの親父に捕まえられて、めでたくマスターの初ポケモンになったって訳なんだよ」


うっすらと笑みを浮かべたまま、噛み締めるように話を語っていくクロ。
私に何を伝えたいのかは未だ読み取ることは出来ないけれど、それでも、だから取り敢えず聞くだけは聞かなければと私はクロの思い出に耳を傾けた。



「マスターとの旅は凄く楽しかった!」

「俺はさっきも言ったみたいにざっこいポケモンだったからさあ、マスターも凄い苦労したよ」

「自分でも申し訳なくなるぐらい、本当に弱くって」

「だけどマスターはそんな俺に匙を投げることなく、凄い頑張って俺を鍛えてくれて────……」

「あっ、違うんだよ。無理な特訓とかじゃなくてさ。地道にこつこつと経験を貯めさせてくれて」

「俺は、凄く幸せなポケモンだったんだと思う」

「マスターとの旅は、考える力なんてこれっぽっちもなかった一回のモンスターだった俺にとっても凄く綺麗で、魅力的だと思えるものだったんだ」

「俺はマスターに、ずっと付いていけばそれで良かった。───マスターの指示に従ってたら、何もかも上手くいってたんだ」

次々に溢れだすクロの言葉。
それらは全てきらきらとした輝きに彩られ、美しく。
聞いていたこちらも思わず微笑んでしまうような、そんな楽しいお話だった


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