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「ど……して、」


どうして、ここにお前が。

いやそれ以前に、そもそもどうやって。


病室で寝てる筈じゃ、起き上がる力があるわけがないのに、繋がれた点滴は、なんでここが分かった……様々な疑問が泡のようにぽこぽこと浮かび、答えの出ない内に弾けて消える。呆然としているのは私だけではない。私のことを抱えている男も、白バンから出てきた男も、急な直の出現に戸惑っている。どうするべきか、迷っているのだろう。

直はそんな私たちを、あの怜悧な眼差しで一瞥する。


「俺は、離せと、言っているんだが。」


その声色はとても落ち着いていて、言葉遣いもとても丁寧なのだが、それでもそれ以上に言葉に表現できない迫力やらオーラやらがひしひしと伝わって来る。その空気を向けられている本人ではないはずの私まで冷たいものが背筋を伝うほど。

まるで、まるで凍った炎に周りを取り囲まれているかのような。


「お前――、この女の手持ちか、」
「聞こえなかったのか?」
「くっ……離せと言われて離すと思うかこの野郎!」


男がそう言った瞬間、グルゥオォォオ!と獣の唸り声が轟き、次の瞬間、ぶわっ!と熱風が吹きすさんだ。鼻の中が焼けるような熱さに思わずむせかえる。

「げほっ、………な












─────ずざざざ!!という乱暴な衝撃に、意識を取り戻した。
瞬間、喉への妙なせりあがり感にげほげほと咳き込む。

「げっほ……ごほっ……」
なっ……ん、なんだ?一体何が起きた?
痛みと疑問に顔をしかめ、散りそうな意識をかき集めている最中もずりずりと首もとを中心に背中から体が引き摺られている。

どうやらただでさえ血が足りず酸欠な上に不意に首を引かれたことで意識がブラックアウトしていたらしい。体が酸素を求めているらしく、
はっ、はっと荒く浅い呼吸を繰り返している。そこまで長い間気を失っていた気はしないから、大した時間ではないのだろう。いや、そもそも気を失うとはそういう事かもしれないが。


「起きたか。」
「はぁっ……直……?」
「起きろ。重い。」
「む、り……はぁっ…はぁっ…」


這いつくばってなんとか顔を見上げて、すまない、と続けると苛つきからか舌打ちが降りかかった。「どうやってもここで倒すしかないということか……。」

く、と目を細める直。一体何を考えているのか。
私が今這っているのは、白バンの二人組と対して先程直がいたのとは逆方向に同じぐらい離れたところ。一人は驚きを、一人は怒りと焦りを顕にしてこちらを見つめている。否、睨み付けている。どうやら私が気を失っていたのは本当に一瞬だったようだ。
だって、先程と状況が殆ど変わっていない。


はっ、はっ、と酸素を取り入れることに必死になっていると、白バンの方の男が不意ににやりと笑った。
不吉な──笑み。
それを見た直が怪訝に眉を顰める。

「すっかり忘れてたが……そうか、ヘルガー………」
「………チッ!!」


不機嫌を隠そうともしない直の舌打ちが男の余裕な笑みを加速させる。


「アン!!逃げるぞ!!」
「ゴースト、黒い眼差し!」


逃げるぞ、直がそう言って私の腕をぐい、と引っ張った瞬間、
───ぎょろぎょろぎょろ!!!
私達二人の足元、その影の中から無数の目玉が現れた。得体の知れない気持ち悪さに、ぞくりと総毛立つ。

これも、こんなこともポケモンの技なのか。
だとしたら、ポケモンとは。ポケモンと言うのは。


「チッ……余計な事を……!」

何かに辿り着きかけた思考が、直の言葉にぶつりと断線する。そうだ、今は、余計な事を考えている場合じゃなかった。


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