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───杏、おいで。
暗闇の中で目を開いた瞬間、聴こえたのは誰かの声。
同時にすぅ、とぼんやりと存在感を放つ手のひらが浮かび上がった。ごつごつとした、明らかな男の手だ。
────杏
近付く手のひらに目を閉じたその時、再び響く声。低く、優しく。私の首筋をくすぐった。
………この声の主は、誰だろう?
躍起になって意識を集中させても、どうしても思い出す事が出来ない。
加えて言うなら声自体も視覚も、耳には入っているのに肝心の頭を素通りしている、そんなフィーリング。
これは、なんだ?
困惑している私に、再びごつごつとした無骨な手のひらが語りかけた。
───俺が居なくて寂しかったろう?
「………、」
答えなければ。
答えなければ、ああ、はやく答えなければ。
その声に何とかして答えようと思うのに。
それでも私の喉は、鉛のようなものが詰め込まれてしまったように、ただひゅうひゅう引くつくだけで何も空気を震わせなくて。
───杏……良い子だ。
何も言えず立ち尽くす私に、丁寧に手入れされた無骨な腕が伸ばされ。そして。
柔らかく、触れた。
絶叫。
「■■■■■■■■───────ッ………ッ…───アッ…■■■■■■■■ァ─────────ッ……!!!」
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