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「なぁ、直。お前、これからどうするつもりなんだ?」


ちらり、切れ味の良さそうな瞳がこちらを一瞥する。
鼻を鳴らして、一言。

「取り敢えず、快復次第この街からは出なければならないだろうな。」
「ああ、それは私も考えていた。」


かなり嫌な言い方になるが、こいつが実験体としてどれくらい特別だったかによっても、追われ方はかなり変わるだろう。

特別な固体、という言い方は気に食わないが、あちらからしたら手をかけた固体はやはり手を離しがたいはずだ。
それに、あの会社が世間的にどう捉えられてるかは分からないが、この世界でどのように捉えられてるかによってどれくらい表立って行動出来るかも変わる。
超有名会社なら都合が良い。

こんな人体実験のような実験をしていると周知になる事態は避けたいため、余り大立っては出来ない。はずだ。

少なくとも、一晩目で見つけて強襲される事態にならない程度には目を付けられていないことが分かった訳だが、それにしても出来るだけ早くこの建物から離れるに越したことは無い。


「そもそも、あの会社はどんな会社なんだ?」
「………実験されていた俺が分かることは、せいぜい地下の隠された空間で実験を繰り返す賤しい奴等の固まりだと言うぐらいだな。」
「………悪かった…」
「フン。」


俺が知るわけ無いだろうがそんな事すら考え及ばないのか筋肉女。そんな声が聞こえる気がして少しだけしょげる。
うう〜、そうだよな、実験されてたと言うぐらいなら外の状況なんて分かるはずも無いよな……。
でもわざわざそんな遠回りな言い方をしなくても、良いじゃないか。お前さんよ。


「………じゃあお前が快復するまでに私が情報を集めて、快復次第出発するって形になるのか……」
「……待て。さも当たり前の様に言っているが、お前、もしや付いてくるつもりか……?」
「?」


……え?
いや、勿論その通りだったけど……なんか都合が悪かったか?

「百歩譲って、お前が昨日言ったように……俺の怪我が治るまでは面倒を看ると言うのは分かるとして…だ。それは、でしゃばりすぎだろう。分かっているのか、自分の立場が。」
「………」


何か都合が悪い、どころでは無くみるみる内に機嫌が急降下していく様子を見て、……えっ?えっ?


「俺は、人間を、嫌っている。」
「ああ。そりゃあ確かに、そうかもな。」
「……貴様、噛み殺されるとは、思わないのか?」

え?

「お前、私を噛み殺すのか?」
「……筋金入りの阿呆かお前……。だからそう言っているだろう。」

呆れたように……いや、最早それを通り越して侮蔑の表情で溜め息を一つ。いや、だって、

「現に今、お前、私の事を噛み殺していないだろ?」
「今はな。」


釘を刺すかのような言葉に、思わず開きかけた言葉を飲み込む。


「確かにお前は初対面で俺を擬人化してるとは言え、退けた。しかしそれはあくまで擬人化した状態の事だ。原型を取り戻した俺が、本気を出せば人間のお前を容易く殺せるだろう。」


…………。ふむ。
原型になれたらどうして私を噛み殺すのか。分からないことはあるが、取り敢えず肯定も否定もせずに、続きを無言で促す。


「そして、俺は、あの賤しい奴等の元で生まれた。この意味することが、分かるか。」


……そいつらの元で生まれた、と言うことは。
もしかして、いやもしかしなくても、その実験をごく小さな頃から繰り返されたと言うことが言いたいのだろう。


「俺が今この姿を取っているのは、薬の影響だが……このように思考をする為の自己意識は、あいつらへの憎しみから生まれた物だ。果たして原型に戻った時に、自分の怒りが抑えられるかは、俺にも分からない。」


くるしい。

いたい。

こわい。

いやだ。

しにたい。

いやだ。

しにたくない。

しにたくない。



────殺してやる。


「人間を恨んでいるポケモンは俺だけでは無い。もう少し、人間であることの身の程を弁えて行動を考えた方が良いと思うがな。」


鼻を鳴らして、こちらをあの磨かれた黒曜石の瞳が、切り裂くような険を持って射抜く。
人との関わりを、拒絶する瞳。


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