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「……そして、彼の症状は、それが原因とも言えます。」
「………?」
「宜しければ、擬人化についても説明致しましょうか?」


こくり、頷く。


「擬人化について今のところ分かっている事は、一つ、相応の力を身に付けていることだと先程も言いましたね?」
「……ああ。」
「それは、只の身体能力的な力と言うわけでは無く、精神力……言うなれば、意志の力の部分が大きいと言われています。人間と暮らすポケモンに擬人化が出来る個体が多いのは、野性として本能の中で生きるのではなく、人と共に暮らす事で、はっきりとした思考力を手に入れ易いからだと言われています。」


ふんふん……。……つまり、動物としてじゃなく、人と同じくらいの考え方が出来るようになったら、誰でも出来る…
と、そういうこと……だろうか?


「なら、どうしてその薬と言うのは作られたんだ?誰にでも出来ることなら、わざわざ薬を開発する必要……」
「元は、例えば国際警察の方々が言葉を喋れないポケモン相手に対して証拠を集める際に使用する等、非常に限られた関係者のみが使用を許可されている劇物なんです。一歩間違えばポケモン虐待に繋がりますから…」


虐待に繋がる?でも、擬人化って確かポケモンの間で一般的にしていることなんじゃないのか?

どこか腑に落ちないのが表情に出ていたのだろう、女医さんが困った顔で付け足した。


「………先程、意志の力が必要だと言いましたね?」
「ああ…。」
「思考力は勿論のことですが、肝心のなりたいという思いがなければ擬人化することは出来ません。擬人化すると、原型時使えていた能力の殆どは使えなくなります。火炎を吹くこと、空を飛ぶこと、水を呼ぶこと…。それでもなりたいという思いの元、ポケモンは擬人化を行います。そう言えば、理解して頂けるでしょうか。」

「…………………あ、」


すとん。

急に、事の深刻さを実感し、今まで『それがそこまでいけないことなのだろうか』と考えていた思考が、がらりと色を変える。


無理に擬人化させられること。
それはつまり、自由を奪われること。力を奪われ、自分の身を守るすべを奪われるということ。

大変な、屈辱だということ。


「お分かり頂けたようですね。」
「……ああ。」
「では、次の話を致します。彼の症状の原因は、その薬のせいだと言いましたね。」
「ああ。」

さっきから私、ああ。しか言ってないなぁ……。仕方無いとはいえ、情けないぞ……。

「彼は、望まない擬人化をさせられ、無理矢理にその力を押さえ付けられていたため、大変体に負担が掛かっています。」
「…………。」
「薬害のためあまり薬で治療することは避けたく、ここで療養していただくことになるのですが…。」
「………」
「貴方は、どうなさいますか?」


当然のように、回復するのをここで待つ、と言いかけて、慌てて口をつぐんだ。


「トレーナー、ブリーダーなど、そう言った関係者であるならトレーナーカードをご提示頂きお待ち頂こうとも思ったのですが……どうやら、そうでも無いようですし。……容態も一段落、ついた事ですから……」


そう言った関係者であるなら。

どうやらそうでも無いようですし。
容態も一段落ついた事ですから。


その言葉が、遠回しに、されど端的に告げている内容。
『部外者は去れ』


部外者。───部外者?

無関係では、ない……けれど。
それなら私とアイツの、あの男の間に、どんな関係があると言うのだろう。

私達にあったのは、あの怪しげな会社から逃げ出すまでの、利用し合うだけの関係。ビルから脱出するまでの、使い捨てのような関係。
そこに、これからの行動を共にする約束があった訳でも無し。


ならば───、

ならば、ここに運んできた、そこで別れるのがベストなのだろうか。


そうなのだろう。

きっと、他人に、自分の都合に勝手に首を突っ込まれたくはないはず。

私だって、そうだ私だって人に構っている場合じゃない。早く元の世界に戻る方法を調べなければいけない。




でも。


「……女医さん、私は、アイツの事をよく知っているじゃないし、アイツに…どう思われているかは分からない、けど。」
「……?」
「……アイツに、身寄りが無いことは知っているし…だから…違う、そうじゃなくて、」
「………」

「…………ほっとけないから、暫く様子を見ていても、良いだろうか……」


………ふ、女医さんの笑みが和らいだ。

「では、こちらへ。」

あれ?
断られるのを覚悟で、言ったのだけれど、案外すんなり……って言うか笑って……?


案内に従って歩きながら、一人で首をかしげた。


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