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伏せた姿勢から立ち上がり、相手を凝視。もとい、観察する。
蛾。
ばさばさと鱗粉を撒き散らして巨大な羽をはためかせる、蛾をデフォルメしたようなデザインの生物が空を舞っていた。


「ドクケイル、と言う。」
「ん?」
「あのポケモンの種族名だ」


ドクケイル。その固有名詞に頭を傾げると、隣の男から補足が入った。
ごくり。
そうか、未だに掴めて居なかったけれどポケモンと言うのは虫の一種だったのか。


「そうか、蛾の仲間、という事か。」

私がそう呟くと、怪訝そうに…いやいつも怪訝そうに見てくるから、いつもよりさらに怪訝そうにこちらをちらりと一瞥してきた。そして一言。

「………蛾。か…」

おっ、おう、確かに私は蛾とは言ったが。
なんなんだそんな意味深な口調で…また文句でもあるのか、一人言にまでいちゃもんつけるのか!しゅっ!
そんな私を見て、男はやれやれと言わんばかりに首を振る。男…そう言えば、コイツの名前をまだ聞いて無かったな。


「……ん?待てよ、ポケモン……って事は、それじゃああのドクケイルとか言う奴はお前のように擬人化が出来るという事か?」
「さあな。」
「……さあなは無いだろうさあなは……」
「ある程度実力さえあれば擬人化出来ることは確かだが、コイツにその姿を大人しく表すつもりがあるかどうか俺が知る由も無いだろう。」
「?」


つもりがあるかどうか知る由も無い?……ん〜、つまり、それは、なりたいと思わない理由も少なからずある、という事で……ふむ。


「じゃあどうして擬人化なんてこと…、」
「お前ら!いつまで二人でお喋りしてやがる!」
「仲の宜しい事は結構だが、お前達が大ピンチであることに変わりは無いんだぞ!」
「誰と誰の仲が宜しいだと?」
「誰と誰の仲が宜しいだって?」


私の言葉を遮るように二人組が発した言葉に、さらに応える声が綺麗に重なった。
以心伝心、しかしマイナス面に限るといった感じだな。


「フン、余裕ぶっているのも今の内だ、やれっドクケイル!どくどく!」


二人組の内の一人がそう叫ぶと、ドクケイルがいっそう力強く羽ばたいて…蛾が力強く羽ばたくなんて表現私も初めて使ったな…紫色のキラキラしい粉をこちらへと飛ばし始めた。綺麗だが、名前からしてとても不穏であるのは確か。

「……、」

迫りくる粉は密度も相当で、伏せたぐらいでは逃れようも無さそうだ。うむ…!

さてどうしたものか。私がじりじりと下がると隣の男が退け、と一言吐き捨てた。

「退け、って言ったって、お前はどう、」
「良いから下がれと言っているだろうが。消し炭になりたく無ければ大人しく指示を聞くことだな」

消し炭にはなりたく無いので大人しく言うことを聞いて後ろに下がる。私が下がったのを確認すると、
男は前を見据えて毒の粉の壁に向けて手を横凪ぎに一閃。
男が手を振り切った一拍の後に、


ぶわっ!!!


と炎が迸った。
粉は消し炭になり、焦げた残骸のみが下に落ちている。
クリアーになった視界の先に、力無く地面に落ちた蛾…ドクケイルと、腰を抜かした二人組の姿が見えた。


「……お前、実は、凄い奴だったんだな……。」
「フン。それで、次は。」

冷たく吐き出された言葉に、地面にへたりこんだ二人組がびくりと反応する。


「お前達が相手で良いのか?」
「ひっ、……ひぃいっ…!」


かつかつかつと長い足を運び、男達のへたれている場所へ一直線に進むと、足を構える。そして、渾身の力を込め、

ガツン!

足は音を立て、男の一人の顔を掠めて壁に突き刺さった。
いや、突き刺さるというのはあくまで例えであって実際は大きな音を立てて壁に蹴り込んだだけだったのだが。でも、こう、めり込んでていてもおかしくない気合いだったと思うんだぞ……!

「ひっ……」
「ひ、卑怯だぞ!あっちのド派手な髪色の女がポケモンだと思ったら…しかもテメェ、目茶苦茶強いじゃねぇか!聞いてねぇぞこんなの!」
「…?」

ふむ。ド派手な髪色…って、私の事だよな?やっぱり赤毛、こっちでも目立つもんなのだろうか。

「……でもお前らの黄緑ってか、緑のおかっぱもなかなかとんちきだと…」
「おおお俺達を愚弄するか貴様!くそっ、貴様のような桃色頭に俺達がそのような扱いを受けるとは……」
「は?」

ももいろ?

いきなり襲来した嫌な予感に、慌てて一つに結んでいる髪を掴んで目の前に引っ張る。手の中に見える、この色は。紛れもなく。

「………なっ、」

こうこうと色付く、綺麗な濃いピンク色。


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