3



腰を内側からがりがりと削られるような強烈な痛みも、もともと予定していた今日一日の行動予定が崩れたことも、だるい体も、泣きそうになるほど上手く行かない日常も、侮られるのも気遣われるのも、まったくもって、全部、ぜーんぶ、

「なぁっ…んなのよ、もう!!」

腹が立つ!

痛む体に八つ当たりするためにわざと強めに座ったソファ。その際に跳ねた足先がテーブルを揺らし、一ミリのずれもなく積み上げられたよくわからない分厚い本がずざざざァァァー……アアアー……んんんんんんんもあーーーーーっ!!!

「意味わかんないっ、なんでこんなところに本なんて積んどくのよバカバカ!しかもちょっと触っただけで…いや、私自身は触りすらしてないってのにどーおして崩れる訳ェ!?あー、もう、イヤ!しらない!」

そういいながら思いっきり仰け反った顔にまでもかつんとティッシュの箱が落っ、こちて、来て 、

………はあーーー………。

仰向けの顔を手で隠して、ため息一つ。

一時的に大量放出をしたことで怒りはいつの間にかおさまっていて、そのせいで感覚が逸らされていた疲労や痛みがここぞとばかりにぶり返す。

疲れた。

いや疲れたのは自分のせいだけど。

そもそもそんな状況になる舞台を整えた同居人もいや。
こんな些細なことに腹を立てて疲れる今の状態そのものがいや。
っていうかなんもかんもいや。全然わかってない。何がわかってないって、なんもわかってないのよ、もう、んんん、あああ…

「…ってゆーか、生理なんて…子供作るときにだけ、ありゃいいのに……」

ぼそり、つぶやいたタイミングで玄関のドアノブがガチャガチャと動かされる音が耳に届く。
うっさいわねとそんな些細なことにも気力なく文句を垂らす私をおいて、玄関の叩きから廊下をリビング(つまりここだ)へ向けて裸足のはずなのに妙につかつかとした足音が近付く。

がちゃり。

「…………臭いな」
「ただいまぐらい言いなさいよクソ直」

第一声がそれかふざけんな虚弱わんこ、鼻が良いのは知ってるけどアンタ自分の発言がどれだけ堪に障るか知ってる?

「生理か」
「だったらなんだってーの……死ね……」
「お断りだ」

律儀に雑言に返事をして、私の足元を見た奴の機嫌が少し悪くなったのが感じられた。見なくてもわかる。
未だにどうして同棲が続いているのか不思議なぐらいに、奴は神経質なのだ。雪崩れた本を(それも自分の、大層ゴコーショーな本と来てる)目の当たりにすれば、当たり前の反応だろう。

「謝んないわよ。こんなとこに本を置いてた、アンタが悪いんだから」
「………ほお」
「倒したのは私のせいだけど、倒れて困るのはアンタのせいなんだから」
「ほお」
「何よ。文句あるの」
「……別に」

それを皮切りに、しいん、と沈黙が下りる。

「う…」

あ、今。流れた。

「……………」

私は腰痛なタイプなので幸いとお腹を抱えていなくちゃいけないことはないんだけど、それはつまりどんな姿勢でも常に痛いと言うことで。

軽く浅く呼吸をしてれば少しは楽になるだろうか。はっ、はっ、はあ……駄目だわ、ちっとも楽になりやしない。
心のなかでこんちくしょーと吐きながらなんとはなしに目をぱちりと開いた瞬間、

「!」
「………」
「……ち、」

かい、わよ!?

仰向けになった視界のその中のあまりにも近い奴の顔に一瞬、痛みすら飛ぶ。

「…な、なに、よ」
「いや。…お前、そのきゃんきゃんと騒がしい口さえ閉じてれば、そう見られた物でない事もないなと」
「…ハア…?」

なにそれ、普段は見られたモンじゃないってわけー!?

私はそう叫びかけたけれど、途端に開いた口に指が押し込まれ、

「!?」

押し込まれ、えずくような感触で言葉にならない。

ぐにぐにと舌を弄る冷たい指が、少しずつ温くなって。
だらだらとはしたなく涎が頬を伝い流れて、ちょっとした恐慌に陥る。

「え、あ」
「…黙ってろ」


いつもにまして低い声は洒落にならない響きを帯びて……私は何となく察した。察したったら察した。つまりは、ああいうことだ。
あの、あのねアンタ、私今日生理なの、鼻が良いからわかってんでしょ?馬鹿なの?死ぬの?

「うー!うーー!!」

その内に直のもう一方の手が私のセーターの裾を捲りあげて、ブラを上にたくしあ…アアア!?コイツやっぱり本気なわけ!?腰 が い た い っ て 言 っ て る で しょ !バカバカやめてやめて今日だけは勘弁して!
決死の思いで足を動かして、そうだ本を!げしっげしっ……あうっ…とどかな、

「いぅっ!?」

びっくーん!

「、ちょっ、ど、こ触って、」

首をぐいっとねじって、指をぺっと吐いたは良いけど…こっ…いつっ、乳首、つ、つま、摘まんで、

「や…やだっ、ちょっ…んんっ…ん、」
「何が」
「い…ま、してること以外に、何があるって…ひっ」

も、やめてよおー!

なんで!最近ずっとご無沙汰だと思ったら!よりにもよって今日!

やけになってじたばたと暴れるも、乱暴に上に膝の上に座られて身動き取れなくなって……ひゃーーー!

「どおっ、どこ!触って!」
「触ってない。下着脱がせてるだけ」
「それをパンツさわってるっていうのよ!やっ、ちょっ、こら、ソファが汚れるじゃない!」
「抵抗しなきゃ風呂場まで連れてってやる」

あーー駄目ねこれもう本人凄い乗り気なあれね、私が抵抗しても無理矢理挿れ始めるあれね、もう明日絶対立ち上がれないわ、クソが…ぐう畜…。

かかえあげられてもまだぶつぶつと唸っていると、さらりと直が口を開いた。


「原因は貴様だ。」
「……は?」

は?なに?原因?
どういうことだと口を開きかけた私の前で、直がフンと鼻を鳴らす。

「俺は悪くないぞ?」


存外楽しそうに口の端を上げている奴を見て、ついに私は大人しく白旗を上げた。







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -