「ん、やっぱり名字さんだ」
「え…あ、基山くん」

新譜の低い棚を物色してたらひょこりと隣に寄ってきた制服に、映える赤。基山ヒロト。どうやら今日は縁があるらしい。丁度見ていた棚にある確か今日出た新譜の。話しかけられてこのまま避けるのもどうか「そのバンド、好きなの?」まあ当たり前だ、手に持ってんだから思ったけど当たり障りのない言葉なんてそれくらい。

「ああこれ?俺じゃないんだ。晴矢が買っておいてくれって」
「ハルヤ?」
「わからないよね、ごめん。隣のクラスでサッカー部の南雲晴矢」
「ごめん、わかんない」

去年今年同じクラスになってなければわかるはずがなかった。なってても大抵忘れてしまうけど。わかってたのに聞き返したのが間違いだったか、それでも基山ヒロトは「そっか」笑って「名字さんも好きなら俺も聴いてみようかな」CDをくるくる見ながら言った。

「名字さんいつもつけてるからセンスありそうだしね」

自分の右耳をつついて言いながら「じゃあまた明日」手をゆらゆら振ってレジに向かって行った。
基山ヒロトはよく笑うやつだ。微笑っていうのか、そんな笑い。善良な優等生らしい感じの、そう、ムカつかないタイプの。
ああそれでしいて言うなら別に私はこのバンド、好きか嫌いかでいうならまあ好きかってくらいだから、保障は出来ない。
だけどそれを一枚取って水色のイヤホンと合わせて私はレジに出す。帰ったらこれを最初に新しいイヤホンで聴いてみるか。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -