前髪オッケー。サイドオッケー。テカりもとった。汗も処理した。…ジャージだけど。霧野先輩が帰る前に!皆にバレないように!
私も今年ばかりは恋する乙女のご多分にもれず、バレンタインに本命がいる。甘いの好きかも訊いたことがないしわからないからパウンドケーキを焼いてみたはいいけど朝練ではドリンクも私から渡せずもちろんタオルも渡せず。いつもっていうか毎日私が渡してるのに今日は茜先輩が渡してた(でも茜先輩はキャプテンが本命だからセーフ)。廊下ではもちろん会わないし先輩の教室に行くなんて勇気ないし、メールで呼び出そうにもアドレスがわからない失態。そして午後練が終わって今。渡すなら今しかない。

葵ちゃんたちが更衣室に戻ってくるまえにケーキを持って霧野先輩を探す。今更ながら霧野先輩って多分キャプテンと帰るハズだから茜先輩に付き合ってもらえばよかったとか、でも見守られるのってなんか変かなとかぐるぐる。足取りもサッカー棟をぐるぐる。うわわああ見つかんないよ…むしろなんで皆居ないの?着替え中?だったら更衣室の近くにいれば…ってそれじゃ変な子だよ!

「どうしたらいいんだろう…」
「あれ、苗字さんまだジャージ」
「えっ…ああ狩屋くんか、」
「愛しの霧野先輩じゃなくて残念?」
「やだ狩屋くんしーっ!」

頭抱えてる後ろから狩屋くんに話しかけられる。どうしよう狩屋くんが制服ってことは今先輩通ったら…!でもこのまま探すより「その…先輩、今どこに居るか、わかる?」狩屋くんに訊いてみる。

「霧野先輩ならキャプテンと揃ってチョコ貰いすぎて車で迎え来てるって、帰ったんじゃねーの」
「え」
「つーか他の先輩も天馬くんたちもさっき帰ったしさ」

どうやらいろいろチェックしてる間にむしろ着替えた方がよかったくらいの出遅れっぷりを私はしていたみたいで。ああ、どうしよう。渡せなかった。

「……狩屋くん、アドレス知りたいって先輩に訊いてもらっちゃだめ、だよね」
「いいけど」
「ほんと!?」
「霧野先輩がわざわざ一日避けたの気づかねえんだ?」
「……へ」

迷惑ってこと、かな。
じわり、目頭が熱くなる。対照的に狩屋くんはいくぶんか楽しそうにしてて、これはいじわるされてるだけなんだ、そう思いたいのに。本当だったら?思うと涙がこぼれる。

「お、い…ちょっ泣くなよ」
「だっ、て…せんぱ、きら…うぅ」

「ちげーよ!霧野先輩は!……アンタがすきなの知ってるから…俺が」

一瞬何を言ってるのかわからなかったけど「あー…くそ、なんだよー…」ってほんのり染まりながら言う狩屋くんは初めてで、ええと告白されたのかな、こういうのも初めてで少しドキドキする。

「わざと避けたんじゃねえの、って言いに来ただけだから、泣くなよなー…もー」

制服の袖でぐりぐり目を擦られたから痛くて顔が熱い、だけで。行き場が無くなったからお礼にってだけで。「これ、貰ってくれませんか」ケーキを差し出したらそっぽ向きながら「どうも」って言うからまた少しだけドキドキしたのは泣いて脈が安定しなくなっただけで。






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