「晴矢のうそつき」
「はあ?しょうがねーだろが」
「雨降んないって言った」
「降っちまったモンは諦めろよ」
「私信じて傘置いてきたのに!」
「俺も持ってねえよ?」

ドヤ顔で言わないで欲しい。久しぶりに部活がオフだと晴矢が言うから買い物しに行こうって約束してあった日、の、放課後にもなれば雨が降ってきてしまった。ざまあみろ、とばかりに叩きつける大粒。晴矢が毎日毎日晴れると言うし、朝もからっとした感じだったしで傘いっか、と思っていた。置き傘入れてくればよかった。そうしたらここで逆にドヤ顔で傘あるけど?なんて言えたのに。そもそも逆も何も今の状況で晴矢が偉そうに出来る要素がない。

「晴男じゃなかったんだ」
「誰かさんが雨女なんじゃね」
「根も葉もないこと言わないでくださーい」
「いつまで俺ら教室いんの」
「知らっない!傘ないのにこれ飛び込むとかばかじゃん!ってかさりげにしりとりすんな!」

たまった鬱憤を晴らすように捲し立てれば晴矢は「名前だって乗ってたくせによ」しれっと言う。たしかに乗ったけど。

「晴矢、職員室行って傘借りてきてよ」
「いいけど」
「え」
「じゃあ行ってくるから待ってろ」

そう言ってがらり、ドアを開けて晴矢はすたすた行ってしまった。
てっきりお前が行けって言われると思ってふっかけたのに。晴矢もあんなふうに言っといて悪いなって思ってたり実はしたんだろうか、思うと楽しみにしてたのは自分だけじゃなかったのかとふつふつ思い浮かんではああきっと今締まりのない顔をしたな、顔を思いきりぶんぶん振る。べとべと髪が張り付く、やっぱり雨はいやだ。

空いたままのドアにちらり入り込んだ晴矢の手には白の持ち手がガリガリ削れた普通のビニール傘と、もうひとつはと思いきやそれしかなかった。一人で行ったから一つしか貸さなかったのかな、事務のおばちゃんめ。

「え、一本?私も行ってくる」

机から降りれば返事をすると思った晴矢からはそれが聞けず「いい」とだけ言った。わけがわからなくて「なにが?」訊いたら思いきり明後日の方を見て「デート、行くんだろ!」がなるから、その意味が予想外に嬉しくて言葉にするよりはやく頷いてそのままどっちも黙って昇降口まで歩いてった、すごくすごく長い時間のような気がした。
心臓がどくどく鳴る。下駄箱から出した外靴がごとって鳴る。一つ一つ足を入れて、前を見て私は一つ、気づく。

「ねえ晴矢」
「ん?」
「やんでる、雨」
「はあ!?」






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