※誕生日が夏休み期間の方向け(そうでなくても差し支えありませんがそういう設定です)


夏休みは憂鬱です。
たしかに買い物行こうねだのプール行こうねだの祭だの花火だのスイカだのなんだの!たくさん用事を作ろうと話します。盛り上がるのです。だけどだいたいがなあなあなまま夏休みを迎えてしまうもんだから結局しっかりとした予定にはならずパァになるのです。せめてなにか一つだけでも決定されてればそこから次の予定が生まれるかもしれません。それでも今年もなにも決まってないのです。とうに消えた会話の中の願望に過ぎないのです。誰とも、会えないのです。だったら電話でもメールでもすればいいとは思います。わかります。断られたときの虚しさを味わうのももうこりごりなのです。だから、基本的に携帯電話を使っても友達とはくだらない話しか出来ないのです。
ただ、そんな夏休みにも一日だけ少し違う日があるのです。私が生を受けた日、誕生日があるのです。その日だけはぽつぽつと¨誕生日おめでとう!¨のメールが入ってくるのです。たしかに嬉しいです。祝われてますから。けど言ってしまえばそれまでです。どうせなら普段友達が学校でされてるみたいに朝教室についたらおはようでなくおめでとうを言われるとか、プレゼントを貰えたりとか、給食のデザートくれたりとか、そんなのを体験してみたいのです。
せめて、誰かに会いたいのです。メールだけでは機械に祝われてるような気持ちになったりします。そんなことはないですが、なるのです。
私は自分の誕生日がすきじゃありません、夏休みもほんのちょっぴり憎いのです。





今年も夏が来た。
テストも返され、大掃除で雑巾がまっくろになって、校長に笑かされて、学校にしばらく近寄らなくなる。
つまりは夏休みが来たってことなんだけど、別に嬉しくない。宿題だって嬉しくないけど、授業の代わりなんだから仕方ない。
蝉がこれみよがしに鳴く。近所のプールからラジオ体操がうっすら聞こえる。私の部屋には音はない。一周してしまったアルバムを再生するのも億劫。
明日が明日来なければいいのに。



気の進まない目をこじ開けてなにか飲もうとリビングへ出ればメモ用紙に¨なんか買いなさい¨と良く知った顔が三人。プレゼントのつもりですか。まあ忙しい親だからしょうがない。
階段をゆらりと上がり、支度してそれを財布に詰めて外に出た。

先週確か出たんだよね、と脳裏に浮かべつつ新譜の棚を吟味する。三千円イコールアルバム、と私の頭は相当楽に出来ている。CDショップにぐらいなら来る気はある、しかも涼しい。
あった、と斜め上に手を伸ばす、と見える向こう側二つ先の棚のところ。見知った頭と、ピアス。


「財前?」

「…なんや、偶然やな」


声をかければ振り替えるその右手で支えるCD、CD、CD。


「めっちゃ金持ちやん」

「誕生日金貰てん」

「え、冬生まれやと思とった」

「今年やと海の日や、わかりやすいやろ」


ほんなら、とすたこらレジに向かう財前を早足で追っかけて「待ったって、暇やろ付きおうて」と言えば「まあええけど」とさして当たり障りなく言われたから私はその後ろに並んで会計を待った。

買うたんは元から買う気あってんまだ見たいんやけど、って財前が言うから場所は変わらず。私も新譜、邦楽、洋楽、と色々見た。後着いてっただけだけど。どうやらさっきも買ってたけど財前は洋楽がすきらしい。しかも私がよう名前しらんやつ(私はほとんど邦楽だから洋楽はよくわからない)ばっか。


「やっぱ意外やわ」

「そないに意外か」

「おん、夏生まれってあっついイメージあんねん」

「自分いつなん」

「今日」


え、って顔するから(まあ財前の場合あんまいつもと変わんないけど)「意外?」って聞けば「あつないやん」てしれっと言うから「せやね」と笑っておいた。

行ったり来たりでジャケ見たり、試曲したり、ちょいちょい雑談したり。そんなこんなで早くも一時間強は経ったもんだからこれ以上付き合わせるのも悪いかなと思い「一人よか全然楽しかったわ、おおきに」と入口に近いとこで言った。
財前はまだ見てくのかと思いきや一緒に開いた自動ドアへ足を進めた。


「見たりひんやろ」

「喉渇いたんや」

「ふーん」

「自分がおごんねんあほ」


道なりに歩いて右手、自販機に仕方ないと思いつつカチャンカチャンと小銭を入れる。ガチャリ、麦茶か。季節感じますね。


「私からの誕プレな」

「随分安上がりやな」

「しゃーないわ、あげる予定あらへんかってんもん」
ま、ええわとくい、と麦茶を飲み干す姿を様んなるなあ運動部は、と感心して、歩こうとすれば財前は前に進む。私の家はここを右。軽く名前を呼びここでお別れと、手を降る。


「うちこっちやわ、ばいばい」

「待てや」

「おん?」


背にした財前の方を向けばカタと首もとで音がする。視線を寄越せばそこにはさっきまで財前の首回りにかかってた水色のヘッドフォン。


「それやるわ」

「え、やって財前困るやん」

「買い換えるつもりやから」


さもいらないからと言う割には上等なものだった(前雑誌で見た、これ出てから半年も経ってない高いやつやん)


「…おおきに!」


言い終わってそっちを見れば飄々と財前は歩いて行ってたから聞こえたかどうかはわからなかった。



夏がはじまる

(買ったばかりのそれを貰ったばかりのそれで聴いた)(今日という日を少しだけすきになれる気がした)





HAPPYBIRTHDAY
HIKARU.Z 0720



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