ただ真っ暗な天井を見つめ始めてどれくらい経っただろう。
睡魔とお友達な私の目は珍しく冴えていて、閉じても閉じても今日はくっつかないでいる。
気持ち的には眠たいはずで、体も結構だるんとしてる。風邪とかじゃなくて気が抜けているようなそんな感覚。
なのに寝れない。
どうしたら。
そしてふと考え付いた、誰か起きてるんじゃないかって。
一人くらいはいるんじゃないかって。淡い期待を親指にかけ、こういうときは誰に送ったらいいの?
…履歴の頭!
「起きてる?」とだけ打ったメールを履歴の一番上を見ずに送信。
ふう、とため息ついて一分。
来ないかな、いやでもまだ一分だし。スライドをカコカコ開いたり閉じたり。真っ暗な画面に、もう少し待って来なかったら諦めようと思った、
瞬間。
ぱっと光を帯びて右上のランプも光り出した。…え、涼太?
表示は「黄瀬涼太」で、さらに驚いたのは。
――着信中
私、誰か友達に送ったって信じてたのに。あと来るのはメールだとも信じてた。
驚きを隠し切れずにいながらもボタンを押して電話に出る。
「もしもし、」
「ん、どしたんスか?」
「や…あの…寝れなくて」「俺は今起きたとこっス」
「起こしちゃった?ごめん!」
私のメールで起こしてしまったなら悪すぎる。涼太は毎朝早いのに。どうしよう。なんて思ってたら電話越しから笑い声。
「メール来たのは起きちゃった後。まあ別に起こされててもよかったけど…嬉しかったしね」
そう言って機械越しの涼太はクスリと笑う。
それになんだか気恥ずかしくなって私はなんと返せばいいのかと頭を掻いたり布団を被ったり。もちろんそれを涼太が見てわかるわけもないから「なにしてんスか」ってまた笑われてしまって恥ずかしさは増すだけ。
「で、大丈夫?」
「なにがっ?」
「何がって…寝れないって言ってたじゃないスか、なんかあったんじゃないかって」
神妙そうな涼太の口振りから心配してくれているのがわかる。なんだかそれに申し訳なくなる。
寝れない理由、なんでメールしたのか、今まであったことのそれらを話したら涼太はただ「ふーん」って返した。呆れたのかな、なんて思って私も黙ってしまったところで涼太が口を開いた。
「なんだあ、俺じゃなくてもよかったんじゃないスか」
「え、」
「俺てっきり頼られてんのかなって盛り上がっちゃって…」
呆れられたんじゃなくて、拗ねられた。
気に入らなかった点はどうやら涼太を選んでメールしなかったことらしい。そんなとこを気にした涼太がいとおしくなってしまって私はぶつくさ言う涼太に口を挟んで「涼太」話を切った。
生まれた静けさに唐突に「大好き」そう言った。
え、なにいってんだ私。
言ってしまってからは取り返せない、今度こそどうしよう。泣きそうなくらいの羞恥を帯びる静寂を今度は涼太が壊す。
「あーでもどうせ履歴俺ばっかっスよね?なら運命じゃん」
俺のこと頼るように出来てるんス。そんなことをナチュラルに言ってしまう彼だから私は好きなんだ。
きっと私はどっかで涼太に届けばいい、起きてればいい、そう思ってたんだろうなって思った。