嬉々として彼女は決まってめだかちゃんの話をする。
今日も会うなり「めだかちゃんかっこいい。めだかちゃんかわいい。美しい。聡明。容姿端麗、眉目秀麗!」なんて文字通りノンブレスで自分の世界に浸るから、嫌がらせ抜きで修正してやった「『眉目秀麗は男に使う言葉だよ』」それがきっと耳には入っていないだろうけど、僕は別段気にしたりしない。彼女のつむりが弱いことは重々承知の上だし、僕にだって親切心は毛頭ないし。
ってことは嫌がらせだったのかな、位のとりとめも興味もない日常でしかないから。
そう、これが日常。めだかちゃん不在の生徒会室、出払うは不適切で…つまり集まっていないが正しい時に限って彼女は押し掛けてくる、そんな日常。

いつだったっけか。僕は訊いたことがある。「『苗字ちゃんさー』『めだかちゃんがそんなに好きなら会いに来たらいいのに』『なにが楽しくて僕っきりのこの部屋に来るの?』」
まあタイミングの悪さ(めだかちゃんに会いに来てるのに会えない時間にしか足が向かないといった類いの)故かも知れないけどそれは奇特な憶測に過ぎなかったし、不可解だったから。
その時の彼女は嫌に素直に応じたのを覚えている、慣れてないことを差し引いたとしても、だ。

「私なんかは、めだかちゃんに会えませんよ」

憂くような表情をそのとき初めて僕は見たんだっけか。その表情に位は興味を持ったかもしれない。マイナスの香り、故の。
それだけっちゃあそれだけ。
茶化しちゃいけないような空気が流れたから望み通りに「『目安箱に投書しなよ』『めだかちゃんに会いたいーってね!』」茶化すことにした。
それに乗じてか、返事を返す彼女がいつも通りだったことも僕は覚えている。うん、不可解だ。


「…聞いてますか、禊さん」

「『おや』『君はファーストネームで呼ぶんだっけか』」
はあ、と仕方なさげに吐かれたため息をにこりと見れば彼女は続ける。
「禊さんが前にそう、呼べって」そういやそんなこともあったっけか。記憶をくるり。僕のきまぐれ。ならきまぐれ序でに不可解が離れないとばっちりとして、僕は提案する。

「『禊くん、にしようか』『萌えるかもだし』」
「でも先輩にくん、なんて」
「『やだな苗字ちゃん』『その先輩、が言ってるんだぜ』」

彼女は少し渋って「禊くん」僕を呼ぶ、うん、悪くない。優しくない僕はそれからまた彼女に問おう。君は、僕に会いに来てるの?って。







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