その目は私を捉えている。
いつだって見かければ隠すことなくその目で私を見ていた。斜め上から(近寄らなければさして角度は感じないけど)痛くその視線は私を捉えている。
目が合うことも幾度かある、その度にまるで決まりでもあるかのように、私は逸らすことが出来ずにしばらくそのままでいる。冷や汗だけ、感じる。

いつからだろう、やたらと桃井さんが私に関わろうとしてくるようになって、ああ桃井さんまで可哀想に。そう思うようになった。彼女にそう言えばいつものように笑って「赤司くんがね、あなたが必要だって言うのよ」でも話してみたかったしよかったかな、そんなことを決まって教えてくれた。
彼女みたいな子がいればバスケ部も安泰だろうになあ、私みたいなバの字もわからないのをマネージャーにしたいだなんて(よくわかんない人だなあ)




その程度に思っていた。

今、この瞬間赤司くんに声をかけられるまでは。



「ちょっと」

私以外に人影がない瞬間を見計らって、そんな考えが最も当てはまるシチュエーション、逃げることは許されないと彼の視線が訴えている。ぞくり、ただの悪寒とも違う、慣れない冷たさを感じる。
精一杯の平常心を装いつつも元より人見知りの気がある私は「何か、用事ですか?」振り絞って声を出す、視線は合う、話も聞く、だけど私は赤司くんと話したことはなかった。

「身構えなくていいよ。ああ、敬語も」

くすくす笑いながら彼は私に近づいてくる。目はそらさずに「僕はさ」話し始める。

「君に興味があってね?」

ぎり、と手首が歪む。

「少し話そうか、悪いようにはしない。マネージャーなってくれるだろ?」

桃井から話は聞いてるだろうし説明はいらないな、それはイエスの答えしか受けないと言うかのように。「私はバスケ、わからないから」つかえたごめんなさい、の代わりに赤司くんが低く「何度も言わせるな」塞き止めて、私はもう有無など言えない。

桃井さんの気の毒そうな表情の意味を今になって私は知った。
井の中の蛙を思っていたことを。
その目が私を捕らえている。





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