ひかる、
そう呼ばれたから不本意そうに振り向けば薄く微笑む先輩。先輩はどうも奇特なシュミを持っているらしく、そうさっき俺がしたよーに嫌嫌ながらも相手してくれるなんていう微妙な距離感がすきらしい。変わってる。
「もっと冷たくしたって」
「はぁ」
「嫌いにはなったらあかんのよ」
「…はあ」
「ひかる」
「なんです」
「光、だいすき」
「なんかパチくさいすわ先輩のそれ」
「なして、愛しか込めてへんのに」
口を尖らせたあと片方だけぷくと膨らませてすぐに戻す、先輩のクセ。きっと無意識なんだろうけど(やっていつも全然違うとこ向きよる)むくれてる、ってか拗ねてんのわかりやすすぎ。これもすきだって言ってた少し細めの冷ややかな目線を向けて「なんぼなんでも軽すぎ、何回言うてんの」と言い捨てれば笑顔で「光のことすきなだけ言うねん」て懲りずに返してくる、だから溜息で返事する。先輩の目が、輝く。
「先輩」
「なに光」
「名前呼ぶのすきですね」
「やって光がすきなんやもん」
普通に嬉しそうなことをするときは目をだいたいそらす。恥ずかしいんだそうだ。
先輩のシュミのがよっぽど恥ずかしい。
「先輩もし俺が今から無理矢理しても嬉しいんやろね」
「光ならなんでもええねん」
「すぐいれられて痛くても笑うんやろ」
「光がくれるんやったら痛くても嬉しい」
痛いほうが結構残んねんで、と俺の腕をとったと思うと爪痕を二つ。
残念ながら痛くもないしこの程度なら話し終わった後すぐぐらいにも消える。
「先輩」
「ん」
首と鎖骨の間ぐらいの見えるか見えないかのところに軽く花を咲かせる。これはそうそうと消えない。
「痕言うんはこうつけるんすわ」
と冷笑のような笑み(嘲笑いたいのはむしろこんな人を構う自分自身)を向ければその大きめな目をうるつかせるから痛かったかと少し後悔するけどそれはじきに無駄になる。
「光めっちゃすき、あいしてる」
きゅっと指を絡めてくるこの人をどうしても傷つけることがかなわない。
傷つければつけるだけ、悦びに変わってしまうんじゃそれはノーカン。
その女、被虐体質につき。
(狂ってる)(その性癖も、結局望みは叶えてやってる俺も)