狩屋マサキは寂しいやつだ。「見かけたから連れてきたんだ」そう蘭丸が連れてきたとき至極嫌そうな顔をしていた狩屋は私を見るなり「彼女さんですか?邪魔しないんで安心してくださいね」にこりと曲線で笑った。蘭丸、後輩に嫌われてるんじゃないだろうか、思ったのも束の間頬を染め視線を逸らしてどかりとその場に座ったのを見て安心した。素直な可愛い後輩じゃないか、と。
蘭丸の可愛い後輩ならば私にとっても可愛い後輩だ、と見かける度声をかけるようにした。最初はにこにこ「あ、苗字先輩」言っていたけどだんだん「げ、なんですか苗字先輩」なんて悪態をつくようになった。これが蘭丸にしていた態度だと思うと嬉しくなった。
ちなみに慣れっこだから訂正しなかったけれど私と蘭丸は幼なじみであって男女の仲ではない。現にあの神童拓人のこともファーストネームで呼んでいる。決してそういった感情から蘭丸にするのと同じ態度を狩屋にして欲しかったんじゃなくて、嬉しくなったのは私は狩屋マサキに惹かれていたからだった。蘭丸には気を許しているように見えて羨んだからだった。
そう来たら私だって初恋じゃあない「ねえ狩屋、今度遊びにいこうよ」誘ったときだった。

「なんでわざわざ休みの日に苗字先輩や霧野先輩に会わなきゃなんないんですか」
「なんで蘭丸が出てくるの?二人でだよ」

狩屋は目を丸くしたと思うと意地の悪い目付きになって「へえ、彼氏に黙って他の男とデートはまずいんじゃないですかあ?」言った。ああそうだ狩屋はまだそう思っているのか「蘭丸とは付き合ってないよ」いつも皆にするように淡々と返せばなにが面白くないのか、初めて見る嫌悪感丸出しの表情で言う。

「そんなことしなくたって霧野先輩はあんたのことちゃんと好きですって」
「だから、そんなんじゃないんだってば」
「俺」

すかさず入った狩屋は有無を言わさず遮るような強い口調で「そういうのだいっきらいなんです」言い終われば踵を返してすたすたと行ってしまった。私はなにがなんだかわからなくなって「なんで」それが声になったのかそれすらも。




「ちょっと霧野先輩」
「狩屋か、なんだ?」

不機嫌そうにする狩屋がわざわざ話しにくるのは部活を除いたら初めてのことだった。なんだろう一年生間の不満かなにかだろうか、キッと睨んできたのを見て強張る、これは違う。

「彼女はしっかりしつけといてくださいよ」
「彼女?」
「揃いも揃ってとぼけんのかよ」
「…言っておくが名前ならただの幼なじみだからな」

そう言うと狩屋は黙ってより一層きつい視線を向けてきた。名前は何をしたんだ、それとも単に、狩屋は。

「……サイアク」

ぼそりと呟く狩屋にやっぱりそうかと溜め息がもれてつい頭に手を乗せたら甲で払われて「違うなら…最初に言えよな…」行動と気持ちが伴っていない不器用なやつだと思えた。

「名前がすきなんだな」
「そんなんじゃないです」
「ハイハイ」

ぶうたれる狩屋を宥めながら「ちょっと待ってろ」携帯を取り出せばやめろやめろと喚いたが気にせず名前にかけて「今から教室前来れるか?」問えば元気の無さそうな返事が聞こえる。俺は名前の気持ちを知っていて狩屋の気持ちもわかった、だからこそなんというか言い方は悪い痴話喧嘩は早く終わらせて欲しい。内容はしらないけれど。ぱたぱたとやってきた名前は俺のとなりに狩屋がいるのがわかるとおずおず近づいてきた。




「どうしたの、霧野」

苗字先輩はばつが悪そうにやってきた。なんだよあんなへこむなよ俺が悪いみたいだ。そもそも気を使っているのかさっきまで名前で呼んでた霧野先輩をわざわざ苗字で呼んだり、だとか。イライラするというかむずむずするというか。思っていたら霧野先輩が背中を押して前に、苗字先輩の方に突き出るような形になる。なにしやがんだ、思いつつ視線を上げれば顔ごと逸らされる。それがいやに癪に触ってそのまま気づいたら言葉にしていた。

「日曜だったら、空いてますけど!」




狩屋マサキは可愛いやつだ。一度散々に断っておいて今度は照れながら偉そうに提示しかえしてくるようなとんでもなく可愛いやつだ。嬉しいんだけど、まだなんだか今何が起きているのかわからない、それくらいさっきはショックだった。唖然としてると「何も言ってくんなきゃ困るんですけど」狩屋は続けてきてやっとむしろ今は誘われているのだと理解した。きょろきょろと伺っていると蘭丸が頷いて早く返事しろと催促していて狩屋に向き直る。

「えっとじゃあ相談したいからアドレス…」
「先輩の赤外線ついてないですよね」
「あー…じゃあ蘭丸に聞くね」
「また霧野先輩かよ」
「ごめん…」

またやってしまった、そう思ったけど今回は違った「俺が霧野先輩に聞いて送りますから」狩屋がぶっきらぼうに言って蘭丸が困ったように笑った。これが、見たかった景色だった。





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