これ前提


「ときに吹雪くん」

円堂くんに用事があって空港に降り立ちふらふら免税店を眺めていたときだった。空港がお似合いのしゃんとしたスーツに身を包んだ基山くん、ああ今は吉良くんになったのかな吉良くんに出くわした。なんでも仕事の関係で客人を招きに来たはいいが一本便が遅れていて暇をしているそうだ。
丁度土産話にもなりそうな具合だ、お茶でもしないかと誘ってカフェに入ってしばらく近況や懐かしい話を交わしたところだ、突然吉良くんが「これだけは譲れないなって思ったことはあるかい?」言った。

「譲れないもの?」
「こないだ人と話したときに気になってね」
「ふうん…そうだなあ」

浮かんだのは紛れもなく名前ちゃんのことだった。今は確かに吉良くんの彼女ではあるけれど、中学のとき…キャラバンで知り合ってからというもの、惹かれて行った。最初はただ眩しかったしただの女の子だった。けど変わっていった。日本代表になったころ少し、少しだけだけれど付き合ったりもした。若いな有無を言わせなかった。知り得る限りの狡い言葉で頷かせた。あの頃からたしかに吉良くんを目で追う名前ちゃんを僕は知っていた。

「昔…友達にとられちゃった女の子のことかな」

これくらい許されるだろう冗談まじりに言えば「手厳しいな」吉良くんは笑った。自分のことだってわかっているふうだった。

「今でもその子がすき?」
「悔しいけどね。でも僕は彼女から倖せを貰うだけだった。彼女を倖せに出来るのは……君だけみたい」

口にすれば「やっぱり名前か…」って吉良くんは困ったように言った。名前は吹雪くんに想われて倖せだと思うけどなあ、吉良くんは言う。そっくりそのままお返しするよ、全く。

「それじゃあ僕、そろそろ行かなきゃ」
「俺も待機しようかな。ありがとう、吹雪くん」

そのありがとうは時間つぶしに付き合ってくれたからか、それとも。



*




「円堂くんはさ…悔しいな、敵わないなって思う人っている?」
「え?そりゃあお前とか豪炎寺とかにも」

違うよ、サッカーじゃなくてそれ以外で。円堂くんらしいと面白くてくすくす笑いながら付け足せば「なんだ、違うのか」
目を丸くしてから腕を組んでうーんと円堂くんは悩みだした。さっきは即答だったのにうーんうーんと悩みだした。質問しておいてなんだけど答えは見つかったかもしれない、サッカーにおいては敵わないなって思った。純粋にサッカーだけを思う円堂くんが眩しいからだ。
精一杯みんなのサポートをしながら吉良くんを想っていた名前ちゃんが、もう十年も名前ちゃんだけ想って想われて側に居続けた吉良くんが眩しいから、だ。

「ふふ、円堂くんはやっぱりサッカーが一番?」
「ああ!お前もだろ、吹雪」

その一途さには敵わないけどね、思いながら「うん」返事したらなんだかとてもすっきりとして気持ちよかった。





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