きゃあきゃあと盲目的に持て囃す親衛隊に囲まれたいけすかないナルシスト。エスカバたちには生意気でお高いやつ。私も付き合うまではそう思ってたし、実際日中は今も変わらない。今だから知ったことはこうして毎晩ミストレは部屋へ私を呼び出すこと。欲求不満だとか性的な目的じゃなくて、一人で眠るのが苦手らしい。ミストレは案外遠くない存在だった。眉目秀麗才色兼備、そんなナリにまとわりついたイメージ、完璧のレッテル、そんなものを守っているむしろ不器用な人間だった。いつもしているように今日も一人で使うには広いベッドに二人で並んで、ミストレは寝息を中々立てない。甘えたミストレは確かに可愛いけど「オレが寝る前に寝るのは許さない」そのルールだけはまったく可愛くない。ミストレの許さない、は冗談でなく許されない。だからと言って惚れた弱味で睡魔が毎回どうこうなるものじゃない、私は至って普通に最悪日を跨いだら眠りにつきたい。なのにミストレは普通に呼吸をして、特別話もせずただただ私を隣に横たわらせて天井を眺める。今日は我慢がならない日みたいでうつらうつら船を漕ぎそう、でも先に寝て怒られるのはごめんだ、一緒に天井を眺める視線は変えないままミストレを呼ぶ。「なに」ほらミストレは起きていた。

「ミストレって単純に寝るの苦手?」
「別にそういうわけじゃない」
「私が居てもなかなか寝ないじゃん」
「名前と居るのに寝たら勿体無いじゃないか」

ミストレはお手のもの、むず痒くなるようなセリフを言い捨てた。いつもと違うのはきらびやかで飄々としたリップサービスじゃなくて淡々と真顔で言ったこと。飾らない言葉はミストレ自身の気持ちであることが多かった。だからミストレなりに大切にしてくれてるのか、そう思えた。でもそれに真面目に返すのはどうか「私はそろそろ寝たいけどね」笑い混じりに返せば「君は、明日もちゃんと隣にいてくれるんだもんな」空気に溶かすようにミストレはぼやいた。
ああ、明日はミストレの母親の命日だったっけ。寂しいんだ。誰にも言えずに。そう言えば近頃はずっと夜更かすようになって来ていたかもしれない。気丈なふりをして、平等を演じて。私は彼女なんて特別なポジションを貰えたから知った、ミストレは誰より大事なものは大事にする人間だと。

「ミストレ、抱き締めてあげようか」
「子供扱いは関心しないよ」

悪態をつくミストレの手をとって、抱えるようにきつく包む。抵抗はされないでミストレは黙っていた。身体ごと包むようなそんな存在にはなれる気はしない、ただ少しでも抱き締めていないとミストレが消えてしまいそうな感じがして。冷えたミストレのてのひらに、起きたら花束を握らせてあげよう。ミストレみたいに凛とした綺麗な白い花で作ってもらおう。


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