バレンタインのお返し



絶対に十四日来てねと太陽くんに念を押されて病室にやって来た。ホワイトデー期待しててねって言ってたけど病院からは出れないだろうし、太陽くん何を準備してくれてるのかな。
珍しくドアがしまって居たからコンコンとノックをしたら中からどうぞ、の声。ガラリ、その先にはまたまた珍しくカーテンをぐるりと一周回したベッド。バレンタインのときを思い出して気持ち恥ずかしい。

「えっと…太陽くん?」
「名前さん早く早く」

呼ばれるがままにカーテンを少し開けてベッドに近寄れば雨宮くんが「はいっ」おっきな箱を差し出してくれた。菓子折り、とか?

「ありがとう…おっきいね?」
「ねえねえ、早く開けてみて」

私のときとは違って太陽くんはワクワクしてる感じでなんだか悔しい。私ときたら渡すときも今もドキドキしっぱなしなのに、わ、セロテープ切れた。今度こそ綺麗に外して、中を触ってみると…布…?外に出して広げてみる、黒のワン…じゃない、薄い。えっとこれ、私が間違ってなければベビードール、って下着…ですよね?

「たっ太陽くん…これっ!?」「しーっ名前さんたら静かにしなきゃだよ」
「だってこれ!」
「ベビードール?名前さんに似合いそうだなって」

私はそんなことが聞きたいわけじゃない。だって下着ってこれ、どこで手に入れたの、確かにパンツとかホワイトデー用に売ってたりするけどベビードールなんて、しかも中学生から下着って。一人でテンパってたら「冬花さんに協力してもらったんだ」って太陽くんにウインクされる始末。冬花さんたらもう!ああもうどうしたらいいの。

「…名前さんにね、年下って思われたくなかったんだ」
「太陽くん、」

急に太陽くんは悲しそうな顔をして続ける。

「僕のこと嫌いになった?」

太陽くんが両手を差し出したら抱き締めてくれる合図。ひっぱるのは危ないからって最近決めたこと。ベビードールを椅子の上に置いて太陽くんに近づく。首の後ろに手を回されてぎゅっとされて私は「だいすきだよ」顔が見えないから素直に言う。きっと真っ赤。太陽くんも続けて言うだろうなと、構える。急に言われると嬉しいのと恥ずかしいので困るから。

「じゃあ、着てくれる?」「うん、もちろん」
「今…だよ」

くすくす耳元で笑う太陽くんは「うんって言わなきゃ離してあげない」なんて意地悪を言う。だって着るって…確かに全部は脱がなくていいわけだけど服は脱ぐわけで、いやだ。でも太陽くんは聞いてくれそうにない。

「…着替え見ないって約束、してくれる?」
「えー」
「じゃあ着ないし離してもらう」
「ちぇ、じゃあ布団被ってるから言ってね」

ぱっと腕が離れると太陽くんはもそもそ布団に潜っていった。黙られるとドキドキいう心臓の音だけ聞こえる。…カーテン、このためか。ブレザーを脱いで、カーデ、ネクタイ、太陽くんをちらりと盗み見ても布団から出る様子はなけて、スカート、ブラウス…あっという間にブラとパンツ、すぐにベビードールを取って被るようにして着る。あ、でもさすが冬花さん、透けないようになってる。下着だと思わなければ恥ずかしくない、かも。

「着た、よ」

ひょこっと顔を出したと思えば「かわいい」ぽつりと呟いて急に恥ずかしさがぶり返す。

「あんまり見ないで欲しいな…」
「やーだ。見たいからプレゼントしたんだもん」

「だって恥ずかしいよ」
「うーん……じゃあさ、入って」

また太陽くんがもぞもぞ動きだしたと思ったら右に寄り出して、掛布団をめくって言った。渋っていると「あんまり見ないからぎゅって、させて?」頼まれてしまう。見られないなら、思ってお邪魔させてもらうと、すぐに抱き締められて、体が熱くなる。いつもより直に触れてる感じがして。ちゅ、ちゅっと太陽くんお得意のキス。ぎゅってするだけって言ったのに。

「名前、だいすき」

不意打ちの呼び捨てにまで翻弄される私なんかより、太陽くんのがずっと大人みたいだっていつも思ってるのにな、なんて思いながらぎゅっと私たちは抱き締め合って、しばらく、このまま。



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