羨ましかった。悔しかった。そんな気持ちは最初はあったのかもしれない。
諦めろと言うのなら、俺に望むなというのなら、たんに言い訳が欲しかった。一生懸命になれるだとか好きだからだとかじゃなくて、自分のために仕方なくのサッカー。内申書、なんてそんな理由を言い訳にした。
もうがむしゃらになんてなれない。時間がない。
取り締まられてるのが中学サッカーだけなら高校に行ってしまえばやりたいように出来るんじゃないか、なんてことを考えたことだってあった。だけどそれでもどうだっていいやと、サッカーが内申の道具でいいやと、思わざるを得ないようなそんな独裁の中で、だんだんと薄れる興味と過去の葛藤への自嘲は責め立てる訳でもなくなし崩し的に俺に退部を考えさせた。
高校で自由に出来たってそこまで価値はあるだろうか。今更、自由に、なんて。なるわけないだろ。
きらきらきらきらとうざったいくらいに純粋な目をした松風、だったか、あいつが今年入部してからだ。あいつのせいだ、なんてガキくさいことは言わないけどなんだって神童も三国も今更あんな戯言に期待なんかして懸命になって、お前らは俺たちと一緒になって従って来たじゃないか、そんなサッカーでもいいからサッカーしてたかったんじゃないのか。
なにが本当のサッカーだ。笑わせるな。

「笑わせるなよ……」

呟いた言葉は乾くだけで今の俺よろしくあっさりと消えるだけだった。懸命になってたりなんてしたら悔し涙の一つでも流せるんだろうか、堪える何かもないけど嘲笑うみたいに晴れた空を見上げる。

「……南沢先輩、もしかして」
後ろから聞き慣れた凛とした声が聞こえて、連れ戻しにでも来たのかと思う傍らマネージャーわざわざ寄越すのか、とも思いながら振り向く。そこには予想通りに苗字ちゃんが立っていた。

「苗字ちゃん、連れ戻しに来たなら無駄だぜ?」
「わかってます。南沢先輩が考えなしに辞めたりしないってことも」
「買い被りすぎ。耐えらんなかっただけだよ、茶番に」

肩で笑う俺に苗字ちゃんは近づいてきて、手に持っていたタオルを俺の頭にかける。少しだけ背の小さい苗字ちゃんはタオルの裾を引いて俺の頭を下げる。驚くでもなくいやに感傷的になってる俺はそのまま、されるがままに首をもたげる形になって、タオルが視界を阻んだ。見えない。あろうことか苗字ちゃんにぎゅう、と肩のあたりを抱かれた。タオルが首まで落ちる。顔は見えないままの苗字ちゃんが言った。

「せんぱい、お疲れさまでした」

去年苗字ちゃんがマネージャーとしてサッカー部に入って昨日まで言われ続けた他愛もない言葉。そういや今日は言われてなかった。言われる前に、ああ、俺は今日サッカー部辞めたんだっけか。ならもう聞くこともないのか。最後、か。顔に熱が集まった。触れる風が冷たく湿った。
バカみたいだったよ、サッカー部は。中学サッカーも今の日本も。だけど、俺がバカだったんだろうか。だけどそれでも変えようないだろ?変わりようもないだろ?あーあ、折角嫌になったのに。なあ、苗字ちゃんどうしてくれるんだよ。叶うことなら俺からも君にだけ戯言言わせて。
俺に、

「あのさ、苗字ちゃん」
「はい」
「…………なんでも、ねえ」


やらせてくれよ、サッカー。




再録


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