消え入りそうな思いだった。だから何度も確かめるように言い聞かせるように「たくとがすきなの、」嗚咽を交えて言い続けた。こんな風に言う気持ちじゃないってずっとずっと仕舞い込んできたつもりでいたのに、部屋で夜にひとり思うくらいだったのに。ひとりで悩んでひとりで泣いてひとりで苦しかったはずなのに、今の私の涙の向こうにはどうしてだろう、拓人がいる。困ったように微笑んで「知ってる」あやすように私に言い続けてる。つらいのか、と、話したら楽になるんじゃないか、と、拓人はやさしく声をかけてくれるばかりで、私はなぜか頭を撫でてくれるその手すら怖くなった。
嫌いだとかそんなのじゃないってちゃんと想っているって、自分でもわかっているのに優しさが怖くなっていた。傷つけてしまうとか、傷つくのが嫌だとか、私にはもうわからなくて、涙の理由もわからなくて。

「たくと」
「ん?」
「別れよ」

拓人は驚いた。私も自分で口にして驚いた。拓人は開いた瞳をじんわり歪めながらゆるりと細めて笑った。きっと、拓人はわかったって言うのかな、それとも泣いて理由とか問いつめるのかな、いろいろ浮かんだけれど私は後悔とか感じてなくて、案外なにも思わないのにじゃあどうして涙は止まってくれないんだろう。

「それで、お前が倖せなら俺はいいよ」
「たく、と?」
「聞くぞ。今、俺が離れたら、名前はまた…笑ってくれるか?」

それならいいよと私に言った拓人は泣いてなんていなくて、私のために我慢してるみたいに、つよくてやさしい。私はそれに頷けなくて、よろりと前進して拓人の右肩に涙を押し付けた。さみしい、いやだ、こわい、どろどろした感情がいっぱい出てきて肩を汚した。
すする中から振り絞った声は、自分でも言葉になったかわからなかった。だけど「すきって言って」今度は無意識をちゃんと感じた。私は拓人に離さないで欲しいんだと、ただのわがままだったんじゃないかと、わからないけど、そんな気がした。拓人は抱き締めて「すきだ。本当はどこにも行ってなんてほしくない。不安にさせてしまって悪かった」伝えてくれて、じんと胸が熱くなった。耳が濡れた感じがした。拓人の我慢が溢れた証拠だった。すごくすごく愛しさを感じて、倖せだなあと思ったのにまだ私が流す涙にまだちょっと胸が痛くなるのを感じてる。理由はきっとわからない。



再録


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -