もうすぐお別れの時間だった。
私はずっとお日さま園にこれからいるのだと、過ごしていくのだと思ってた。だけど急に、そう、先週だかに瞳子さんから私の親戚が見つかった、引き取られる、そんなうまを聞かされた。よかったわね、瞳子さんは言っていた。でも、私は。

お別れ会をしようと園の小さい子たちが提案してくれて、玲名やリュウジたちがご飯をつくってくれたり、風介が飾りつけの手伝い晴矢なんかもっとチビたちの子守なんかして、私のためにと頑張ってくれてる、そうヒロトに聞いた。
朝からヒロトに連れ出されてウィンドウショッピングに行ったり公園に行ったり、どうしたのって私が訊いたとき、ヒロトは教えてくれた。

「皆には内緒にしといて欲しいな」
「なんで?」
「俺はバレないように連れ出す係、って約束なんだ」
「ホントにヒロトは嘘がつけないね」

やさしくヒロトが笑って、お互いなにとも言わない時間が生まれる。風が少し吹きはじめてベンチがうすら冷え始める。足元の影が気持ち延びていて、明日にはこの公園にも来ないんだなって思う。そろそろ戻るのかな、お別れ会楽しみ…嫌、「や…」声に出てることに気づいたのはヒロトが寂しそうに私を見てることに気づいてからだった。

「ごめん、」
「名前…」

ふっとヒロトが立ち上がって私に手を差し出し「名前に見せたいものがあるんだ」言った。
私は誘導されるままに公園の裏の坂を登っていって、木々も開けた先にたどり着く。

「わ…」

町をミニチュアにして切り取ってはめこんだみたいに、眼下に見慣れた景色が広がって、その後ろや周りは綺麗な夕焼けがやさしく包み込んでいる。

「これで忘れないかなって」
「忘れないよ、こんな綺麗で…大好きな、場所だもの…」

じわりと景色が歪んだと思ったら涙がそこまで来ていて。泣いたら台無しだなあと思ったのにヒロトがあやすみたいに頭を撫でるから、とうとう溢れてきてしまう。

「…ヒロトの髪みたいに綺麗な赤、だね」
「ふふ、君の笑顔みたいな橙だよ」
「うぅ…ひっ、」

「ねえ名前?ひとつ覚えていて欲しいな」

言葉にうまくできたかわからない「なにを?」って問えば「俺は嘘をつけるようになったよ」ヒロトは言う。一瞬わからなかったけど、私が公園で言ったことに対してだなって思った。声を出すことを諦めて首を傾げたのを合図にヒロトは「皆は俺のために時間をくれたんだ」涙混じりに微笑んで次は眉尻を下げる。今日のヒロトはいつもと違って、そう、かなしそうにする。すごく、すごく。
そんなかなしい顔をしたまま「ひとつじゃなかったや、俺って狡い人間なんだ」今度はわからない、振り絞って名前を呼べば「俺は君がすき」聞いて溢れた涙を止めるためかヒロトは私をぎゅっと抱き締めて「離れたく、ないよ」まるで囁くみたいに、きつく抱き締めながら言った。

「ヒロト、私も、ヒロトが」

簡単だよ、ここに居たかった一番の理由なんて。

「言わないで」

つらそうにヒロトは言葉を被せる。だけど私は構わないで「ごめんね私だって狡いんだ」ひとつ息を吸って「ヒロトのことがいちばん、すき」答える代わりにヒロトはぎゅっと抱き締めて「いつか、また…俺と、」ヒロトはそこまで言ってゆるりと腕を解きながら「ううん、そろそろ行こうか」言って。背中を向ける。
歩き出す前に、ヒロトのシャツの裾を掴んでいた。
おかしいね、このままヒロトがどこかに行ってしまうような気がして。

「最後まで言って?」

「…言えないよ」

それでも私の離れない左手にやさしく触ってため息をつきながら「会えたときは、そのときは」片方の手をポケットに入れて出して、次には指に不思議な感触、ピンクのビーズの、指輪?

「俺とずっと一緒に居てください」
「ヒロ、ト」
「姉さんに一応習ったんだけど、不格好になっちゃって…いつか本物を渡すときまで許して?」
「…はい、」

それからのことは園に着くまでわんわん泣いてしまって、よく覚えてないけどヒロトがずっと撫でていてくれた気がする。玄関で迎えてくれた晴矢に静電気立ってるってばかにされたから。
お別れ会をめいっぱい思い出に刻んで翌朝、私は笑顔で園を後にした。薬指で光る約束をぎゅっと抱き締めながら。


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