なにもしらない夜


坂田さんの頭をきゅっと抱き込んでいると、一見わたしが守っているようだけれど、何だか守られているよな気持ちになれる。不思議である。不可解である。然しこの甘やかで切ない感覚が、わたしはいっとう好きなので、今日もこうして、ぴったりと密着して、坂田さんの頭をきちんとこの腕に抱いてみるのである。坂田さんはといえば、余りお気に召してはいないようで、銀さん子供じゃないんですけどォ、何て云いながら、何時の間にやら体勢をそっくり入れ換えてしまう。ので、彼がすやすやと眠り込んでしまってから、こっそりこっそり、わたしはその柔らかな銀髪へ腕を伸ばすのである。




坂田さんの頬に、自分の頬をそっと重ねる。少し低い温度がじわりと肌に滲む。


赤の他人。
本当など何も知り得ぬ別個の個体。それと確かに通じ合い、こうして抱きしめ合っている事実。髪の色も鼻の形も、身体の大きさも想い出も、何もかも自分とは異なる存在を、こうして腕の中に抱いていると云うこと。こんなに近くにいて、何一つ交わらない、生涯埋まらぬ隔たり。それでも命をかけて守りたいと思う、得体の知れぬ愛情。



(ああ、わたし、このひとと、生きているんだなあ。)





途端にぶわりと押し寄せる。


今日もわたしは生きていて、坂田さんも生きていて。この手に守るものがあって、守ってくれる手があって。明日また変わらぬ朝を迎えるのだと考えるだけで、胸の奥からせり上がってくる、この切迫した愛おしさ。







「何ていうんだっけ、こういうの」





なにもしらない夜 / mos / titled by へそ





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